「お前、弱いね」


 と、私が奇声野郎を睨むと、まだ彼は首の前にいた。…おかしい。もう既に攻撃してきてもおかしくは無いはずだから、確実に奴は何か仕掛けている。私は上を見た。糸が頭上に張り巡らされている。
 その糸から大量にぶら下がっている、あれは…まさか起爆札か!?


 「ヒャハ、ヒャハハハハ! その言葉、そっくりお返しするぜエエエ!! ――『お前、弱いね』ッ」
 「何!?」
 直ぐに、ドオオン、と言う爆発音。どうやら奴は相打ちを狙ったらしい。あの距離であの量が爆発したら、奴も命は無いだろう。私は少し油断をしてしまったようだ。


 「「!!」」


 煙に包まれる半径2m。少しばかり戦闘が止んだ。しかし直ぐに再開する。
 煙が晴れた後、黒焦げになった死体が、ひとつだけ転がっていた。
 その死体は、――



 「あーあ、三地、無様に自爆しちゃったよ…あーもう馬鹿じゃないか…見てられないねえ」
 「えー、まさっかあー、三地の野郎自爆かよお」


 そう、相手方の死体。黒焦げになったそれは、なんとなくイモリの黒焼きを思い出すような形で人間独特の嫌な死臭を放っていた。私はというと、そこから少しばかり右にそれた林の木の陰にて難を逃れることになってしまった。まさか起爆札なんてセコい手を使ってくるなんて思いもしない。男なら正々堂々と勝負しろと言いたかったが『死人に口なし』という諺にもあるように、相手はもうこの世にはいないので文句すらも言うことができない。なんという理不尽さだろう。
 と、まあそういうわけで私のほうの相手は手っ取り早く片付いてしまった。まったく暇なことこの上なく、これからどう援護射撃に回ろうかと私は考えをめぐらせていた。
 あのシカマルとかいう中忍は、黒焦げになった仲間に気を取られていた相手の隙を見て相手の動きを封じたらしい。硬直状態かーと暢気に考えていると、ちょうどよく「今っすよー、さん!」とか言う声が聞こえてきたので、なんて先輩想いなやつなんだろうと思いながら相手の正面に当たる林の上から勢いをつけて飛び出す。


 「術、直前で解きなよ。危ないから」


 私は空中でそれだけ言うと、相手の頭めがけて腰から短刀を抜き振りかぶる。短刀の刃渡りは約20cm程度、その形はバタフライナイフのような形をしており、柄は握りやすいよう日本刀のような形になっている。刀鍛治をしている叔父が私が上忍になった祝いにと、打ってくれた傑作だ。斬れ味はもちろん抜群で、人肉でも豚肉でも牛肉でも鶏肉でも全ての肉類においての解体作業などにもってこいの一品である。人ならば十人斬っても斬れ味がおちないという優れたモノだ。値がつかないほどの高値だろうとは多少思うものの、これは私のためにあるような刀なので売るなどという陳腐な発想は私の頭には存在しない。むしろ売るほうが大損害である。この短刀がなければ私はここまで任務をやすやすとはこなせないだろう。
 私が敵の頭に短刀を食い込ませるか否かという時点で相手に縛りついていた影がすばやく引いていく。私はそのまま頭蓋骨をカチ割ろうという勢いで短刀を相手の頭に力いっぱいめりこませた。
 ズガガアア、ガ、ギシュ、ズゴというような骨が砕ける音と肉が弾ける様な解体音が当たりに響いた。私が相手から離れシカマルの横に移動すると、相手方は「ううぅ…」と何か言おうとして手を伸ばし、血反吐を吐き、真っ二つに割れながら噴水のように赤い液体を周囲に飛び散らせた。一丁上がりである。


 「まあ先輩を立てるのによく出来た後輩なことで私は感激したよ」
 「わざわざ手を下すのとかめんどくせーし、自分でやるよりも戦闘能力の高い人に任せたほうが何かと都合いいっすから」
 「ハッ、正直な奴は嫌いじゃないから取り合えず褒めてやるよ、奈良シカマル君」
 「回りくどい言い回しすぎないっすか、それ」


 頭をわしゃわしゃとしてやると、「あー」と嫌そうに顔をしかめた。そうこうしているうちに、彼も決着がついたようで、彼が戦っていた相手の脳天にはクナイが刺さっていた。ご愁傷様だ。確か彼は幻術のほうの使い方が超一流だったはずだから相手が幻術にかかっている間にグサリと脳天を一突きといったところなのだろう。本当にご愁傷様だ。私だったら戦えずに死ぬなどというのはまっぴら御免である。幻術使いとはできるだけ当たりたくないものだと地味に考えた。


 「後片付けは暗部の仕事。あと2・3分もしたら来ると思うから、放っといても大丈夫だろうね。まあ、そうだ。私たちは、のんびり茶屋にでも寄って団子でも食って帰ろうか」


 ちなみに仕事帰りは茶屋である。なんかこう疲れたし、団子食うぞーみたいなそんなテンションになるのだ。返り血は幸いにしてついていないに等しいのでこのまま行っても常連の茶屋なら大丈夫だろう。茶屋についてぐだぐだ考えていたところで、『彼』が林を指差して言った。


 「、暗部ってあの人達か?」
 「そ。ーーすいませーん、後よろしくお願いしまーす」
 「また、あなたは派手にやりましたね。この人黒焦げじゃないですか」
 「まあ、ちょっと自爆されてしまったので」


 頭をかきながら「えへへ」と笑うと、相手はどうやら呆れたらしく「全く、」と言ってため息をついた。どうやら説教スイッチを押してしまったようで、むっとした様子で話し始める暗部。


 「あなたほど汚い殺し方をする人も滅多にいませんよ。『血色劇場』と称されるのも頷く事ができますよね。こっちは真っ二つだし、あっちの二つは顔の区別もつかないぐらいの肉塊じゃないですか。何考えてるんですか」
 「ほら、どうせ殺すなら完璧な死を。――もし、殺したつもりで死んでなかったりしたら凄く面倒なことになるでしょう?」
 「そうですね、まあ…口出しはしませんが」


 「無駄話はそこまでにしろよ、これ、とっとと片付けちまおうじゃないか」


 一人の暗部の説教スイッチは、もう一人ペアで来ていた暗部の言葉によりオフに戻された。さて、私たちもとっととこの血なまぐさい場所からおさらばするとしよう。私は彼らを振り返り一礼した。


 「それじゃ、後は頼みました」
 「まあそのための暗部ですから」
 「任せとけよ、


 彼らは朝飯前だとでも言うように、手際よく死体を回収し始める。血の始末も手馴れた様子だった。私たちはその場を後にして林を抜ける。勿論、移動は忍者なので一般人より格段に早い。


 「さあ早く団子屋に行こう、お腹すいた」
 「ああついにの本音が出たぞ」
 「凄い運動量だったじゃないか、動けば自然に腹も減る」
 「朝どんぶり三杯飯を食ったのはどこのどいつだったか」
 「朝どんぶり五杯飯を食ったのはどこのどいつだったか」
 「……そんなに食ってんすか」
 「「……」」


 ああ食ったさ、食ったとも! と答えたら明らかに馬鹿にされるだろうと思いながらも沈黙は肯定の何よりの証であることを、この二・三才下の少年は言わずもがな知っているのだろう。ため息をついた彼は誰かを思い出しているようにも見えたが、またそうでない可能性も無きにしもあらずだった。しかし『彼』の奴、どんぶり五杯食っておいて三杯程度でごたごた言う必要もないだろう。明らかにお前のほうが食っているだろう。と心の中で突っ込みを入れた。





 「ここを右で真っ直ぐ行くと着く」

 とシカマルに声をかけると、「はいはーい」というやる気のなさそうな返事が返ってきた。どうやら着いてきてくれるようだ。と、何か安心感を覚えている自分がいて、なぜ安心感を覚えているのかよくわからなくなって、取り合えずそれはそれで思考回路に終止符を打った。…何故ならば、もうすでに林を抜けて街まで出たからである。目の前には団子屋と書いた旗が掲げられている古風な店が、おなじみの長椅子と赤い日傘とともにそこに点在していた。


 「ま、ここなんだけどね」
 「また老舗っすね、これ」と、シカマルがやる気なさそうに店を見上げた。
 「創業五十年はくだらない老舗だし、これくらい品格がないと」


 木造の建築法で建てられているその老舗は、立派な漆塗りの看板を掲げ、いかにも高級感を出しているが、どこか懐かしい雰囲気も同時に醸しだしている。勿論、老舗と言われるだけあって味のほうも確かだ。その味の評判はどこに行っても同じである。つまり、とんでもなく美味い団子屋なのだ。しかし値段的に見れば普通のところよりも割高なのだが、休日にはそれに勝るほどの圧倒的な客足を誇っている。昼時に買いに行くとなると行列が見られるほどだ。一方平日はと言うと、昼時はガラガラで本当に老舗なのかどうかわからないほどに客足が途絶えている。よくわからない老舗だが、取り合えず味だけは確かである。
 暖簾をくぐり、「こんにちはー」と言いながら入っていくと、「あ、様!」とか何とか聞こえてきた。なぜ『さま』付けなのだろうかと疑問に思っていたら、どうやらミーハーな私のファンのようだった。意味がわからない。なぜ団子屋でファンができるのだろうか。


 「様の見事な食べっぷりに感服いたしました。弟子にしてください!」


 かわいらしい外見の10代後半の女の子の常連客である。同世代ではなく、どうやら年上のように見えるが、よくわからない。どうしようかと後ろを振り返って二人を見ると、はにかんだような微妙な笑顔を返された。がんばれ、と言うことらしい。


 「私の弟子か。特に何もすることはないよ」
 「肩書きだけで嬉しいです」


 正直な女の子である。御託を並べるだけの詐欺師よりも、純粋で正直な子の方が好きだ。まあ誰だってそうだろう。


 「構わない、けど悪用は禁止」


 私から許可の出るのを聞いた彼女は、目をきらきらと輝かせて私の手をぎゅっと両手で包み込むように握った。どうやら彼女、なにやら納得してくれたらしい。口を開いた彼女は、「団子10皿奢ります!」と、潔く言ったので、私は度肝を抜かれたような感覚に陥った。どうやら、背後にいる二人も同じような状態になっているらしい。


 「団子10皿お願いします!」
 決断力が、ずば抜けて早いと思われるその女の子が可愛らしい大声を張り上げると、「はーい」とカウンターのほうから声が聞こえた。後に引けない。あれ、おかしい。なぜこんなことになっているのだろうか後ろの二人も急な展開に驚いているようだ。取り合えず私たちは奥のほうにある4人掛けのテーブルに座った。一番奥に彼女、隣に私。彼女の向かいに『彼』。そして私の向かいにシカマルの順である。


 「いや、そんな悪いよ」
 「いーえ! 弟子として、あなたに一生捧げます!」


 おいおいおい、なんて事になったんだ、と目を丸くしていると、「あなたについていきます!」とまで言われ、挙句の果てには「同居させてください! 家事掃除炊事洗濯なんでもします!」とまで言われ、挙句の果てには「結婚してください!」とまで言われてから、さすがにおかしいと気づいたので彼女に問いかけてみた。


 「私の性別を勘違いしているのか?」
 「あれ、様って男の人じゃ?」
 「いや、まあそうだとは思ったけど。…女だから」


 女の子はとても目を丸くして、口をパクパクさせると、


 「同姓だって愛は育めますよね!」


 と開き直ってしまった。…なんてこった。二人の野郎どもは、驚きを通り過ぎて笑いをこらえているらしい。なんてこった。そして女の子はどうやらこの調子で行くと私の家に本当に住み着きそうである。しかしながら、私たちの里って里の者以外は近づいちゃいけないんじゃなかったのか、とか思っていると、おもむろに彼女は懐から何かを取り出した。


 「「「!!!!」」」


 わ た し じ つ は 、 に ん じ ゃ な ん で す 。


 一瞬、彼女がなにを言っているのか意味がわからなかったが、要約するとどうやら木の葉の忍びらしい。額あてを持っているとなれば、ほぼ90%以上の確率で木の葉の忍びである。銀の部分には、木の葉のマークが入っているところから見ると、本当に木の葉の額宛であることは間違いない。と言うことは。…なんだと!? 彼女も木の葉の忍だというのか…これには二人も驚いたらしく、こちらを驚愕した目で見ている。
 「忍者なのか、木の葉の?」
 「マジかよ」
 などと言っている。それを言いたいのは私だ。私の台詞をとるな。


 「ほら、一緒に帰れますよね?」と天使のような笑顔で微笑みかけてくる彼女。
 私は二人に助け舟を求めたが、一人には面倒くさそうに断られ、もう一人には迷惑そうに断られた。要するに私一人で頑張れってことだな。ちくしょうめ。


 私と彼女と彼とシカマルは、そんな妙な雰囲気の中で団子を待ちながら、それぞれいろいろな心境を持ちながらまだ運ばれぬ団子10皿を今か今かと待っていた。
 わからない。わからない。


 それでもまあ、無事に任務も終わったことだし
 まあいいか、なんて考えてしまう自分がいたりして。
 矛盾してると思いながら苦笑した。



 時にはサイコロのように転がされるのも
 人の運命のひとつにすぎないのだから。



















DIE AND DIE  (死とサイコロ)




お題配布元…鴉の鉤爪



【あとがき】――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 と言うわけで、ラーメンの具的な漫画第一弾のシカマルでした。
 この不完全燃焼にもかかわらずワードA4ツメ7p半です…あまりにもアレだったので分けました。戦闘シーンと血まみれる何かを書きたかったので取り合えず敵をばったばったとなぎ倒してみましたがヒロインとして間違っている上にこれじゃただの名前変換するだけの小説だということに気づきました。恋愛要素がない。そしてオリキャラオチとか誰も予想してない事態です私も予想外です。(←
 ちなみにシリーズ的な何かで続きます。やっぱり上官がヒロインだと上官相手ぐらいにしか恋ができないと言うかヒロインは守られてなんぼのもんなので、強いヒロインは駄目ですね、守ってもらってこそ何かときめき的な何かがこうわいてくるのに、こんなことしてるヒロインってやっぱりヒロインとして何かだめですかね。私が何か駄目ですね、わかります。ああ恋愛モノがかけないしかし小説が書きたいああ矛盾。
 2009.01.15