彼女の紡ぐ言葉が、ただの戯言だとは思えない。





 前回の任務で一緒だったさんについての個人的な情報は、よくわからないと言う言葉が的確に表していた。しかしながら彼女が何故か、あの任務を受けてから妙に絡んでくるようになったと言うのも確かな事実である。おなじみになってきた、めんどくせーという悪態をついた後にため息をついた。そのとたんに彼女は、タイミングを見計らったとでも言うように登場してくる。めんどくせー。


 「見るたびに毎度毎度不景気絶好調な仏頂面だな」
 「見なきゃいいじゃないっすか、それなら」
 「いや、なんだか君を見ないと落ち着かなくてね」


 アー今日も仏頂面だなと思うと、こっちとしても安心だしなあ。と訳のわからない理由をつけては彼女が絡んでくる。周りの上忍たちから言わせれば、彼女が特定の人にここまで絡んでくるというのは珍しい事らしく、この事を話すと皆一様に驚く。しかし、なぜ絡んでくるのかと本人に問かけたところでマトモな答えは一向に返ってくる気配はまるで無い。となると自分で考察して考えるしか手は無い。めんどくせー。


 とにもかくにも、この妙に構ってくる「かまってちゃん」をどうにかするには、オレに対する興味を無くすのが手っ取り早くていい方法なんだが、さんが如何して付きまとってくるかという理由が明らかにならない限り、この手は使えそうに無かった。


 「例え話をしよう」

 さんの話は唐突に始まり唐突に終わることが多い。今日の彼女も例外ではなく、いつも通り前フリもなく話し始めた。このタイミングで例え話というのは、何を考えているのだろうかよく分からない。というよりも理解できない。何を考えているのだろう。

 彼女に対して「またそれかよ」と呆れたように言うと、「まあいいから聞きな」と軽くあしらわれた。


 「さて、私がひとつの林檎を片手で持っていたとして、その片手を林檎から離したとしたら万有引力によりその林檎は地面に引きつけられて落ちることになる。それは自然の摂理であり、常識として考えられていることの一つだ」


 何が言いたいのだろうか、まるで当たり前のようなことをつらつらと述べる彼女には相手に有無を言わせぬ表情が宿る。どうやら彼女の弁論にはどうやら何か人を惹き付けるような魅力の一種があるようだ。それは冗談とも間違いとも言い切れず、それはまるで一種の催眠療法のたぐいや、幻術のようなものに近かった。悪く言えば戯言のようなものなのだが。
 さて、オレが考えた彼女の話の組み立て方はこうだ。
 話し始めるやいなや、その話の冒頭部分から相手の興味を惹きつける。相手はもちろん、内容を理解し始めてはいるものの、まだ完全に理解していない。そして、その相手を手玉に取って嘲笑っているかのように、話の山場を持ってくる。そのタイミングは大体、相手が序論を聞き飽きて次の結論を聞きたがり始めた時点で遅すぎもせず早すぎもしない。それは遅すぎても早すぎても逆効果だということを、本人がよく理解しているからだろう。彼女は続ける。


 「さてそこでどうでもいいくらいに関係のない人間どうしの間柄について考えてみるとすると、まあそれと似たようなことが言えることも出てくるわけだ。関係のない人間を関係のない人間と同じような状況に追い込むと、万有引力に似たような力によって人間同士に友情あるいは愛情に似たような感情が湧いてくることがある。そこでだ、」


 彼女は言葉を区切ってこちらを向いた。今までの話しぶりからして何か伝えたいことが文脈に隠されているらしいが、彼女の言いたいことは大抵よく考えなければ分からない。まるで謎解きのように複雑で難解なのである。彼女が人間関係と万有引力を無理やり結びつけたところから考えて、何か人間関係で疑問に思った点を述べようとしているように思える。


 「私と君について考えてみた」
 「…は?」


 確かに人間関係についてという論旨的には間違っていない回答にたどり着いたものの、まさかそれがオレのことだったなどとだれが予想しただろう。まさしく予想外の不意打ちだ。なんて奴なんだ、と考える。いや、確かに予想できなかったこともなくはないが、その可能性を真っ先に除外してしまっていたオレにも敗因がある。まさか、人間関係=オレのこと、なんて予想もしないだろう。普通本人に話すかよ。


 「人間というものは不思議なものだから、」彼女はそこで一拍間をおく。「一回の任務で他人のことを知ったような気になってしまうらしい、愚かな生き物だ」
 「で、それがどう関係あるんすか」
 「単刀直入に言うと、どうやら私は君に恋愛感情らしい感情をもってしまったらしい」
 「…それは、要するに」
 「まあ君が思っている通り」


 …まあそれ以上言うのも野暮だから、と首を傾げて照れくさそうに笑う彼女、さん。めんどくせー。と何度となく呟いてきたお決まりの台詞を心の中で呟く。これじゃあ「かまってちゃん」をどうにかする事なんてできなくなるってことかよ。と、自然と思ってしまった自分に苦笑した。これじゃあ彼女自身が近づいてくるということに対して認めてしまったも同じことだ。
 確かに自分にないものを持っている彼女に尊敬の念や憧れに近い想いを抱いたこともあるが、それにしても。


 「まあ、別に返事をしろというわけでもないから。ただの戯言だと思って聞き流して」
 「言いたいことだけ言って言い逃げかよ」


 ったく、叶わぬ恋なんて初めから諦めてたオレが馬鹿馬鹿しい。


 「あ」彼女は何か感づいたように目を見開いて瞬かせた。驚いているらしい。「…それは、要するに」
 「野暮な質問だぜ」
 「まったく、食えない新人だ」
 「そりゃどーも」


 そこでさんは緊張の糸が切れたようにクスクスと笑い始めたかと思うと、わしゃわしゃとオレの頭を撫でる。


 「なっ!」
 「で、これは付きあってもいいってことなのかな! そうなのかな!」
 「いいっていったじゃ…いてててて!」
 「ああ、悪い悪い」


 全く悪びれる様子もなく、ほぼ棒読みの状態でオレの頭から手を離すさん。彼女はにこーっと笑うと、「じゃ、よろしく頼むよ」と敬礼に似たような砕けたポーズをとる。


 「こちらこそー」

 と、やる気のない返事を答えると、軽く頭を小突かれた。
















お題配布元…鴉の鉤爪



【あとがき】――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 頑張って夢小説っぽくした…けど失敗した雰囲気がにじみ出ている。伏線を張っておかないと私は駄目らしい。
 シカマル夢サイト様が案外少ないのに衝撃を受けて自己生産に走る私。カカシ先生とかの人気に嫉妬した^p^
 自分の文章見ても何も萌えないぜ!まあストーリー考えて文章にまとめてるうちは萌えるんですけどね!(苦笑)
 2009.01.24

(……Twaddell = 戯言)