気づいたらベッドの上で寝ころんでいたなんてことはざらにある事だったけれど、今回は状況が違った。あれ、天井が違う? と寝ぼけ眼で目を瞬かせる。ううん、と唸りながら起き上がろうとするけれど、何かが乗っていて動けない。(まさか金縛り、もしかしてライダー!?)そんな疑問を持った自分の神経を覚醒させて、ばっと上半身を起き上がらせれば、彼女が僕の上に跨って、いた。



 「おはよ、ウェイバーくん!」
 「朝からなにしやがってんですかお前はァ!」
 「昨日のお礼に起こしてあげたんだよ?」
 ペチコートのような薄いワンピースタイプの部屋着を着た彼女は正面からぐいっと僕の肩に体重をかける。もちろん寝起きの僕はそんな急に彼女の体重を支え切れるはずもなく、そのままベッドに倒れこんだ。朝からなにやってんですかコイツは。



 「…へ?」
 頬がぴくぴくとひきつりながら間抜けな声が出るのも、きっとお約束だ。朝からライダーが上に載っていなかっただけでも僕はありがたかったというか、そんな事が実際にあったら困る。じゃなくて、こんな美少女に朝から押し倒されてるなんて一体どうなってるんだ。きっと学校の奴らがこの話を聞いたらしばらくはこの話題で持ちきりだろう。そもそも、彼女が僕にストーカーまがいの事をしてるなんて僕が言ったところで誰が信じるのだろうか。きっと誰一人信じないに決まってる。この育ちも身分も御立派な御令嬢が、僕ごときのストーカー? 誰が信じるそんな話。鼻で笑われるのが関の山だ。
 油断していればちゅっと額にやわらかな感触。残り香のようにふんわりと香る甘い香りは、先日とはうってかわって駄々漏れ状態ではない。気づけば自分からも甘ったるい匂いが香っていて、やはり先が思いやられるな、と痛む頭を押さえた。



 「昨日のウェイバーくんすごかったんだから」
 「変な捏造なんて言ってるとの名前が泣くって何度言ったら」
 「ほんとだって」
 ぷう、と頬を可愛らしくふくらませようがなにをしようが、昨日は何もなかった。断じて。はぁ、つれないなぁ、なんては小言を漏らしながら、(小言を言いたいのは僕の方だ、)僕の上で体重をかけるのをやめて潔くベッドを降りた。ほんとうにかわいいくせにどこか抜けている。普通の男だったらきっとここで喰われてるぞ。



 「コーヒーでいい?」
 「それでいい」



 ぱたぱたと駆けていく後ろ姿。ほんとうにアレが近い年の女の子なのだろうかと疑いたくなるような背中を守ってやりたくなる気持ちに少しだけかられて、僕も相当末期だ、とため息が漏れる。










(20111105:ソザイそざい)ウェイバー3:しゃっくりがとまらなくて焦る。