「! ちょっと、何だよ! 何でこんな熱出して…」
 「あぁ! …来てくれたのウェイバーくん! すき!」



 ぎゅう、と抱き着いてくる彼女の体温は通常の人体の熱さを超えている。あふれだしてくるような甘ったるい魔力は駄々漏れ状態。彼女のサーヴァントであるランサーはと言えば、実体化したまま主の傍らに控えてはいたものの、彼もまた冷静に見えて冷静ではない様子で何事かに耐えているような険しい表情をしている。どうやらこの家の御令嬢様は魔力回路がどうにかなって魔力を集めすぎてしまっているらしい。



 「ちょっと! いきなり何抱き着いてくるんだよ! 恥ずかしいだろ…」
 えへへ、ごめんね。と彼女はとても素直に引き下がる。頬が上気していて、わずかに朱色が差している。汗のかきかたも尋常じゃない。古典的だが額に手を当てれば、やはりすごい熱をおびている。この類のスキンシップもだんだん慣れてきている自分がいる事がなんだかもの悲しい。



 「ほら、もういいから横になって」
 「ほえぇ…ぼうっとする、かなぁ」
 「あー! もー! いいから病人は寝てろ!」
 ふええ、と彼女は魔の抜けたような声を出して布団にぼすっと倒れこむ。はぁ、本当に手のかかる御令嬢だこと。と心の中で悪態をつきながら布団をかければ、ぎゅうっと手を握られる。






 「…う、ウェイバーくん、…あのね、っ…魔力の解放…てつだってくれないかな」
 「はぁ!? そういうのはサーヴァントに流し込んだらいい話だろ!」
 「…ちゅーするだけよ?」



 どうしてこうも簡単にいってくれちゃうのだろうか、この御令嬢様サマは! こっちの心臓が持たないなんて聞き入れちゃくれないのかもしれない。きっと僕の方が顔が真っ赤になってるとか、そういうのを含めて彼女が楽しんでいる気がする。



 「そういう問題じゃないっ!」
 「非常事態なの、ね? いーでしょ?」



 そんなふうに小首を傾げられて、上目づかいで、ベッドの上で。そんなシチュエーションでいかがわしい事を想像しなかった奴の事をきっと僕はほめたたえたくなる。ただし美少女に限るってやつが条件に入るのは確実として。そんな恥ずかしい事、したくないとそっぽを向いてもきっと彼女が諦めないことくらいは知っているから、折れるのはいつも僕の方だ。




 だから、いつも先が思いやられる。










(20111105:ソザイそざい)その2:サーヴァントを正規召喚しなかった代償みたいな何か的なものですよね。副作用きたよ的なノリの。