「ウェイバーくん」
 ぱあっと花の咲いたような笑顔を自分の方へ向ける美しい少女は、いったいいつの間にここを突き止めたのだろうか。状況が状況だけにいつもなら照れたりなんなりする場面だったけれど、あいにく今の僕は警戒心以外感じられなかった。それもそのはず、彼女が乗り込んできたのは部屋の窓からなのである。これは住居不法侵入もとい、ストーカー行為と言う犯罪で捕まるんじゃないか、というレベルで。それよりも。



 「な、なんでお前が…!」
 「来ちゃった」
 絶句する僕に、彼女は意気揚々と窓を開けて入ってくる。もちろん靴は脱いで、片手に持ち礼儀正しく紙袋にまで入れて。まるで上り込んでくるのが当たり前だとでも言うように、彼女はもじもじとかわいらしく(その行動も容姿もかわいらしいのは認めるけど僕に対する執着心は恐ろしい!)ウェイバー君に朗報だよ!なんてぎゅっと抱き着いてきやがりました。何この展開。嬉しくないわけはないけれど、なぜこいつは日本まで来やがりましたか。学校始まって以来の天才児であり異端児とも言われている家の御令嬢は、何がきっかけか僕に懐いていて、うっかり好意的な態度をしてしまったが最後。運悪く、皆の憧れであり羨望の的である彼女の標的になってしまったというわけで。



 「ウェイバーくん」
 ハートマークがびんびんとんでくる彼女の態度にもおおかた慣れてきたところで、ちゅと頬に甘ったるい魔力がふれる。彼女の魔力は非常に甘い。ごろごろと猫のように懐いてくる彼女は、僕が彼女に完全になびくまでついてくるのだろう。ため息をつきながら、よしよしと頭を撫でてやる。



 「はいはい、で、何?」
 「私はほんの人助けのつもりだったんだけど」
 髪をすうっと片手で掻き上げる。「拾っちゃったの」



 見せた彼女の利き手には、その手に似合わぬ刺青のような。



 「そんな……!」
 「私も参加する予定はなかったんだけど困っている人を見てたらほっとけなくなっちゃったっていうか、血だらけだったヒトを道路に放っておけなくてつい、いつの間にか契約してたの」
 「これだから天才ってやつは、」ため息をつきながら「で、そのサーヴァントは?」



 「ランサー」彼女が一声かけると、「はい、マスター」という声と共にその姿が現れる。
 「うわっ! どうしてお前はいつもいつも取り返しのつかない事ばかりするんだ!」
 「……ウェイバーくん?」
 「馬鹿者でしかなかったのか? お前は!」彼女が眉をハの字にして僕を見上げている。「殺し合いだって分かってるのか? 僕と殺し合うと言う事になるってそんな簡単な事が分からなかったわけじゃないだろう? どうして、お前まで参加してくるんだよ…!」
 「ごめん」
 「謝って済む問題なら僕は怒鳴りなんてしないッ!」
 うっかり胸倉をつかんでしまえば、ランサーが少し構えるのが分かった。そんなこと今はどうだっていい。こんな簡単な事も分からずに彼女が聖杯戦争なんてものに参加したなんて、そんな事が知れてしまえば本当に大騒ぎだ。こんな有望株がのこのこ表舞台に立つなんて、僕は聞いてない。ランサーのスキルで誑かされたこと請け合いだった。
 そんなこんなで睨み合いのようなこう着状態。僕には戦う気が無いとしても、相手のサーヴァントにいつ襲われないとも限らない。やばいやばい、と脳内が警鐘を鳴らしている。少し腰を抜かしかけたところで、「なんだ情けない奴だな」と後ろから声が聞こえてきた。この声はアイツ以外にありえない。



 「ライダー! 何ノコノコ出てきてんだよ!」
 「いや、なぁに、せっかく挨拶に来てくれた訳だ。一杯交わしておくのも」
 くいっと杯をどこからか取り出すイスカンダルに、僕はもうため息しか出なくなっていた。
 「もうどうにでもしてろッ! だけど家は壊すなよ!」



 どうしてもう僕の周りはトラブルメイカーばかりなんだ。ため息をつけば、横からぎゅうっとしがみついてくる御令嬢。今日一番の厄災に僕は肩を落とした。











(20111104:ソザイそざい)まじウェイバーくん天使すぎてしにそうですいません