彼女は美しくそれでいて賢明な人だと思っていたがそれは思い過ごしにしか過ぎなかったのかもしれない。常識は外れているし、風呂は一人で入れないとか言いながらうっかり一緒に入ってくるし(いつもケイネスと入ってるってことか!?)それはそれでいろいろと問題のあるような行動ばかり起してくれたおかげで、ウェイバーはほとほと疲れ果てていた。おまけに一緒のベッドで寝たいときたものだからウェイバーはたまったものじゃない。ため息をつきながら自分のベッドに胡坐をかいて座り、目の前のに向かって怒鳴る。 「いいかげんにしろよ! ボクを何だと思ってるんだ、ボクはケイネスじゃないんだぞ! 一緒にいるの次元がおかしすぎるだろ!」 「私ウェイバー君と一緒にいたいの、だめ?」 「後でケイネスに何言われても知らないぞ」 きょとん、とベッドを前にして見つめ合う二人の男女。そう言えば艶やかに聞こえるかもしれない。しかし残念なことに、ここにムードも色気もへったくれもない。あるのはかろうじて美少女くらいのものである。 「ウェイバー君とメオトになれば問題はないのよ?」 「…ッおまえは……!! 御令嬢なら御令嬢らしくもうちょっと慎み深く振る舞え! そんな軽々しくメオトとか言うな!」 「でも…」 「意味分かってるのか?」 「ほら、…せっ」 「こーらこらこら! 女の子が! そんな事を言うもんじゃないだろ!」 ううん?と子犬のように首をかしげる少女はまるで無知すぎた。何を言おうとしたのか察したウェイバーが止めなければ何を言い出したか想像しただけでも年端もいかない女の子の言う事じゃない。どーいう教育のされ方をしたらこうなるんだ、と頭を抱える事が多くなったウェイバーはの扱い方についてどうすればいいか、最善策が見つからずにいる。否、見つけられずにいる。これじゃあまるで人の形をした大きなペットじゃないかとまで思えるくらいには。 「ウェイバー君!」 「…ッ!! うわ、何しやがるんですか、この!!」 一瞬の不意打ちに事態を飲み込めなくて視界が暗転する。自然とベッドに座っていた僕は急な衝撃に耐えられずに彼女もろともベッドに倒れこんだ。思いもよらずうっかり押し倒されたような状況になってしまい、気づけば「何してんだよ!」とウェイバーは思わず怒鳴っていた。そんな声にもめげず、彼女は徐々に顔を近づけてくる。ふわりとした薄金の髪が、頬に触れてそれをよける彼女の細い指がひたりと頬を包んだ。不意に背筋がヒヤリとする。彼女の目がすうっと細くなった。先ほどまでとは少し雰囲気が変わっている。ヤバい、と判断するよりも先に彼女の口が動いていた。 「ねぇ、『外の世界』って面白い所かしら」 ぞわりと、全身の毛が逆立つような甘美な魔力。ふっと警戒心を強めれば、彼女は心外だとでもいうように端正な眉をひそめた。どうしてそんな警戒するの、といったように首をかしげる。どうして、という純粋な探究心、そして知的好奇心。一度も外に出られない彼女が憧れている、外の世界との交流。こんな形で開きかけた外への出口を、みすみす見逃すとでも思っていたと言うのだろうか、いくら可愛い美少女だからと言って、中身は魔女だ。それも封印指定で二つ名を世に馳せた魔女の娘だ。油断していたわけではないが、あまりの常識はずれな行動に気を抜きかけていたのは事実だった。 迂闊だった。と言わざるをえない。これで彼女が外へ飛び出していこうものなら、ケイネスに馬鹿にされること請け合いだろう。いや、むしろもう破門かもしれない。あんな奴の顔を見ているのはもううんざりしているが、それはそれで何だか癪に障る。ギリ、と奥歯を噛む。声のトーンを低くして彼女に問いかけた。 「ボクを脅すつもりか?」 「外に出てみたいの」 「その条件は呑めないな。お前を外へは出せないし、出さない。絶対にだ!」 「……どうして?」 「どうしてもだッ!」 「じゃあ一緒に寝てくれるのね!」 へらり、と鼻先で無邪気に笑う彼女はまさかウェイバーを試しただけだったのだろうか。だとしたらとんだ拍子抜けだった。はぁ、とため息を吐いたウェイバーは、してやられた気分である。実際してやられたのだろうと思ったらどっと疲れが押し寄せてきた。 「どうしてそうなるんだ!」 「外に出られないからウェイバー君が世話をしてくれるんでしょう?」 (ぐぬぬ、間違ってはいない、間違ってはいないけれど!)言葉に詰まるウェイバーは、ため息をつきながらそっぽを向く。 「……今日だけだぞ」 「だめ」 「はぁ?」 「私、ずっとウェイバー君の傍にいるのよ?」 「もういい! もういいから早く寝ろ!」 これ以上聞いていたら何かがおかしくなりそうだった。ええ、と文句を言う彼女が背中からぎゅうぎゅうと抱き着いてくるのに耐えながら、ウェイバーは眠れぬ夜を過ごす。 (20111121:ソザイそざい素材)ウェイバーたんマジ天使!< |