「ねえ勝くん、好きなの。抱いて」と言えばあなたは耳まで真っ赤になると言うことを知っているから私はその反応を見てくすくすと笑うのだ。けれど、いつもならばそうだったはずが今日はどうやら違うらしい。勝くんは深刻そうな表情でこちらを見ている。「ねえ、どうしたの勝くん」私が小首を傾げて聞いても、「構うなよ」と冷たくあしらうだけ。どうして? 私、構って欲しいのに。構ってよ。見捨てないで。「私はいつでも準備できてるの」ブラウスのボタンをはずして、私は切れそうな会話に耐え切れなくなって彼の右手に、自分の左手をそっと重ねる。「俺は選ばれた人間なんだ、なあ、そうだよな。そうだと言ってくれ」ボソリと彼が呟いた言葉が、なんだか呪文めいていて私の背筋をさむいものが走る。でも私はそれに頷くしか、できないことをきっと彼は私よりもよく知っているはずなのに。こんなにも好きなの。あなたが、あなただけが。「そうじゃなかったら、私はあなたを好きになったりしないわ」うふふ、と笑うと彼の表情が少しだけ緩むのが見える。かわいい。この瞬間、ああ、やっぱり彼が好きなのだと私は実感する。今すぐに抱きしめたい。愛してる。あなたしか見えない。彼は私が見えていないように、それでも、ぎゅうっと私を抱きしめる。しあわせ。私は病気かもしれない。あなたが居ないと、きっと生きて行けない。ずっとずっとずっとずっと、ずっと、一緒にいたいの。私の一生で一度だけのわがまま。このひとのそばに、おいてください。 いなくなってしまうなんて考えたくない。考えられない。それでも、心の中のわだかまりが何かの警鐘をずっと鳴らし続けているのが聞こえる。私の想いじゃ足りないくらいのなにかに阻害されているような、恋敵すら叩きつぶされて私の全てを奪っていくような何かとても恐ろしいものの、けはい。ぞわりと背筋が凍るような、何者か分からないけれども果てしなくおおきいもの。もののふ、ないしそれに近い何か。けもののような、しのけはい。いやだ、どうしてこんなことを考えてしまうのだろう。それでも、 (とても怖いの、あなたがいつかどこかへ行ってしまいそうなのが。とても怖い) |