バスにギリギリで滑り込んで、はあと息をついて定期を運転手のお兄さんに見せてバスの空いている席を探してきょろきょろと目線を動かす。私は空いている席を後の方に見つけると、その席へと向かってそそくさと早足で歩いた。ひょいとスカートのひだを整えながら座ると、隣の人から唐突に声をかけられる。 「…おはよ」 「え、」私は空いている席の事しか頭に無かったので驚いて隣を見れば、そこには真田君の姿があった。「おはよう!」 私がしどろもどろしながらあいさつをすれば、真田君はくすくすと笑った。 「…お前ってほんと面白いよな。座る時に気づかなかったのかよ」 「そ、そんなことないよ。面白さで言ったら真田君を上回る人なんていないってば!」私は小声でもそもそと言いながら、右手をひらひらと振った。「それに空いてる席ってここくらいしかなくて適当に座ったら真田君が隣に偶然座ってたんだよ」 「偶然、って……はぁー、分かんねぇよなって」 私は頭に疑問符を浮かべながら、「そうかな」と答える。真田君は「そうだよ」と少しぶっきらぼうに答えた。 「やっぱりそうなのかな。みんなにもよく言われるんだよ」 でも私はつかみ所がないわけじゃなくて、つかみ所がありすぎて困るって言われたことがある。つかみ所がありすぎるから、一箇所を知った所でまた新しく掴まえる所が見つかる。つかみ所がありすぎてどこを掴まえていいか分からない。つかみ所がありすぎるぎるからこそ、どんな奴か分からない。これは要するにいたちごっこのようなものなのだろう。ほとんどの人は途中でキャラをつかむ事を諦めるか、ある程度の距離を置いて表面的に付き合うということに切り替える。まあ、物好きな友人たちは妙に深入りしてきて「心の友よ!」なんて言いながら抱きついてきたりなどのスキンシップをとってきたりもする。それも、ごく一部の数人なのだけれど。 「そういえば、さ」 真田君が私から目線を少しはずして、ぽつりと口を開いた。 彼も私と同じように広い範囲で誤解をされやすいタイプらしいのだけれど、私よりもタチの悪い誤解のされ方をしているようだった。人間なんて結果的にしてみればそんなもんなんだよね、とぼんやりと小声で口走ったのがきっかけでクラスの中では比較的真田君と話すようにはなったのだけれどクラスのみんなは真田君の態度が気に食わないとかうんぬんと言って近づくなとか何とか言っている。目つき悪いのがうつるよ、とまあそんな事を言われてもそれは親からの遺伝だからうつらないよと心の中で思うだけにして、大丈夫と言いながら作り笑いをした。 「って今日誕生日なんだよな」 「え、そうだっけ」 真田君はお前なー、なんて言いながら頭を抱えてため息をついた。私は慌てて折りたたみ式の携帯電話をポケットから取り出してぱかりと開く。日付を見れば本当に誕生日だったので私は「あ」と思わず声を上げた。私は今日、自分の誕生日なんだってことをすっかり忘れていた。うわあ、一日損をしている。 「だからさ、これ」 彼が鞄の中から、おずおずとさしだしてきたそれは彼に似つかわずとても可愛らしい白いレースの模様がプリントされた紙袋で。私は思わず、どきっとしてしまった。まさか真田君から、もらえるなんて思ってもいなかったしそもそも今日が誕生日だなんて事すら忘れていたのだから。 「真田君からもらえるなんて、思ってもなかった」 「バーカ、誕生日忘れてる奴がよく言うぜ」 真田君は照れたように窓の外へと視線を逸らした。私はえへへ、と照れ笑いを浮かべながらぎゅうっと少し大きめの紙袋を抱きしめる。 「ありがと!」 私が真田君に少し寄りかかって言えば、真田君は小さく「おう」と返してくれた。 私は、そんなあなたが大好きです。なんていってしまいそうになったけれどまだ心の中にとどめておいた。 ねえ、真田君。少しは期待してもいいですか。
おめでとう、ありがとう
悪魔とワルツを様:
真田君お誕生日おめでとうな感じのアレ。寧ろ私とお誕生日近いのと掛けてみたアレ。え、自己満足\(^o^)/(20100223) |