私はコンビニから小さく膨らんだコンビニ袋を持って、自動ドアをくぐった。嫌な雲だと来る途中に思っていた、どす黒く濁ったような灰色の雲が青空を覆い隠して一雨来そうな予感がした。だから、早く帰らなくちゃと意気込んできたはずなのにいつの間にかコンビニで一時間も過ごしてしまっていた。これは嫌な予感があたるようなパターンのような気がして、私はとてとてと早足で歩を進めていた。


 ぴちゃり、と頬に冷たい感触。
 きた、と思うや否やそれはとたんに勢いづいたようにザアッと降り始めて止む気配すらなく私は致し方なく目の前に見えてきた公園の大きな大木の下で雨宿りをする事にした。全くとんだ災難だ、と上を見ればピカッと空が光ってから少しして、ドンガラガッシャンと雷の音が響いた。大きい。もしかして近いんじゃ、なんて思ったら少し恐くなってぶるっと震えた。

 もう季節が夏に近くなってきたとはいえどこの雨である。家から近所のコンビニに出かけるからと言って適当な長袖Tシャツ一枚と言う薄着でほいほいと出てきてしまったので、雨に打たれてぐっしょり濡れてしまったこの格好では少しばかり肌寒さが残る。私はその事実を再び認識するとともに、もう一度ぶるっと震えた。


 「仏滅だなあ」
 仏も滅びるような災厄がおこるとされる日、そう聞いていたけれどそんな事を本気にすることなんてほとんどなかった。適当に受け流していた母の言葉を考えながら、私はため息をついて公園の敷地内にぼんやりと視線を向ける。遊具もなにもかもが雨に打たれて水も滴るいい遊具、なんて感じになっていて少しおもしろかった。


 「あ、」そこで私は向かい側の公園の入り口から誰かが走ってこちらに向かってくるのに気がついた。きっとあの人も傘を忘れて雨宿りの出来そうな公園にやってきたんだろうな、なんて思っていれば案の定その通りだった。彼は息を切らしながら雨の当たらない木陰へと逃げ込むとどすんと重たそうなその荷物を地面へと降ろし、汗だか雨だか分からなくなった雫を手の甲でぬぐった。そしてTシャツを脱ぐとぎゅうっとそれをぞうきんのように絞る。ぼたぼたと水が滴り落ちるのが遠めに見えた。
 ふと、私の視線に気づいたのか彼が顔を上げて声をあげた。


 「あ」


 その声を聞いて私ははっとし、そのぼんやりと見つめていた人が真田君だと言う事に気がつく。


 「真田君」
 「相川か」
 私ははっとしてタオルを取り出して渡そうとしたけれど、鞄から取り出したタオルは私の服と同じように少し湿っていて冷たかった。


 「ああ…駄目だ、タオル湿ってる」
 私はぶらあんと手から垂れ下がる、かわいそうなタオルを見つめながらこれじゃあ拭いても同じだろうなとため息をついた。
 「え?」


 真田君が不思議そうな顔をしてこちらを見ているのに気づいて、「そのままじゃ風邪、ひいちゃうと思うからタオル渡そうと思ったんだけど…」と、私はおどけてタオルをふらふらと振った。正直ほとんど話したことも無い真田君はしばらくきょとんとしていたけれど、ニ・三度目をしばたかせるとわなわなと震え始めて唐突に笑い始めた。


 「やべえよ、それ」ひいひいと腹を抱えて真田君はまだ笑っていて、今度は私がきょとんとして彼を見ていた。教室では無口でクールで無愛想だとかなんとか言われているからとっても恐い人だと思っていて近づくのも恐かったりしていたんだけれどそんな姿は今の彼には全く感じられなかった。「お前だってそんな格好じゃ風邪ひくだろ」


 「え、」私はびっしょりと濡れた自分の服を見る。そして真田君を見る。「お互い様、だと思うよ」
 「そうだな」


 お互いに自分の格好を見て顔を見合わせて、くすくすと笑った。
 なんだか、少し真田君の事が分かったような分かってないような一日。しばらくくすくすと笑いあっていればどんよりと曇っていた雲の隙間からぴかっと光る一筋の光が見えて徐々にあたたかい日差しが差し込んできた。わあっと真田君とその様子を眺めていると、それに反するように土砂降りだった雨がぽつりぽつりと小ぶりになって終いには止んで綺麗な虹になった。












あまやどり30分




















仏滅もちょっといい事もはこんでくる事がある、なんて偶然かもしれないけれど。(20100221)