ぞわりと背筋が寒くなって、私は彼から一歩離れた。何がおきたのかよくわからなかったけれど、私はただならぬ何かを感じていたのだろう。そのただならぬ何かは彼には感じられる事は無い。彼は驚いて私の肩に置いた手を離し、目を丸くしてあっけに取られた様子でその場に立ち竦んでいた。ごめんなさい、私は。


 「どうしたん、だよ」
 不安そうなあなたは、おろおろとうろたえた。私は謝る事しか知らないから謝ることしか出来ないけれど、どうしても伝えなければならない事があった。私は首をふるふると振って、彼の目を見て「なんでもないの、ごめんなさい」と謝った。そして席について日誌を開く。


 「俺は、別に」


 謝って欲しいわけではないあなたの気持ちも知っている。けれど私はその目をみると射すくめられたように体が動かなくなってしまうの。知っている、彼は本当はとても優しい人で正義感が強くて達筆だってことも。私がこうして日直で残っている時に、少しだけ残って日直の仕事を手伝ってくれている事も。きっと彼が実はお人よしだっていうことも、私は知っている。クラスでは散々無愛想とか恐いとか言われている彼だけど、とってもいい人なんだってクラスでは私だけが知っている。それだけでよかった。


 「いつも、ありがと」
 「別に、日直の仕事手伝ってるだけだろ」
 「みんな帰っちゃうでしょ」


 私がくすくすと笑うと、真田君はむうっとふくれっ面になってふいっとそっぽを向いてしまった。


 「真田君、」
 「なんだよ」
 「好きなの」


 一瞬の間をおいて、真田君が目を丸くした。
 私はもう一度、日誌からペンを離して真田君を見る。


 「私、真田君が好きなの」
 「ちょ、ちょっと待てって」
 「どうして?」


 唐突に慌てる彼を前に、私は首をかしげた。彼は、ばんっと私が座る机に両手をついた。日誌の紙の端っこが少しくしゃりと歪んで、跡が残る。それよりも私は真田君が近い位置に来ているという事実に、少なからずうろたえていた。


 「真田君?」
 何の言葉も発しない彼に、私は声をかける。


 「あのさ、」彼はぼそぼそと私にしか聞こえないような声で呟くように言った。まるで独り言のようだったけれど、確かに私に言っていた。「俺が先に言おうと思って、たんだよな」
 「え?」
 私が目を丸くしたら、真田君は真剣な表情で机にぼんやりと乗せていた私の両手をぎゅうっと握り締めた。私はどきっとして真田君の顔を見れば、彼は凄く真剣な表情をしていて改めて惚れ直してしまった。どうしよう、これじゃあ骨抜きなんだよ。


 「だから、俺はが好きだから」真田君が続ける。「お、俺と付き合って欲しい」


 「真田君、」私がすうっと席から立ち上がる。「あのね」
 「なんだよ」
 手をぎゅうっと握ったまま口をとがらせて真田君は言う。そのまま、私はにこりと微笑む。


 「よろしく」
 「お、おう」




 そして私は、あなた色。












(きみいろカクテル)















お題::farfalla様





(20100204)