幾分か、君とは違いがある事に気がついた。と、言うと少々語弊があるのかもしれない。そもそも人間というのは違いがあることが当然なもので人は完全に分かり合えるのかといえば、感情から痛覚から味覚から聴覚から嗅覚から感覚から錯覚まで考えたところで完全一致しないという事がどこかの学会で証明されているそうだ。要するに一言で完結に言うならば、答えはノーという事になる。


 そして私は鏡のように似ている(と、言っても内面だけなのだけれど)、彼をじいっと見ていた。
 「そんなに見ても、何もでないけど」
 「何かを期待してるわけじゃないの、私が平馬を見ていたいから見ているだけ」
 「ふうん」彼は、相槌をうつと「まあいいけど」と言う。そして頼んだアイスティーをそれに刺さっているストローで飲む。






 先程入ったばかりの喫茶店はオシャレな森の隠れ家のような外観で、高そうな雰囲気にもかかわらず値段を見ればそれほどでもなく。「疲れたから休憩でもしない?」と、平馬から掛けられた言葉から丁度いいように召喚されたかのような喫茶店だと思った。植えられている観葉植物は、少しこの辺りでは見ないような珍しいものが多く、さすが都会だなあ、とか思ってしまうのだけれど。それよりも店の雰囲気が、初めてとは思えないくらいに居心地がよかった。ちょうど窓の外に見える涼しそうな木陰も、少しの風でさわさわとざわめく葉も、店内のゆるやかなジャズの音も、木製の机と椅子の香りも、全部初めてとは思えないくらいに居心地がよかった。
 「ここ、初めて来たっけ」と彼に問えば、「初めてだよ」と彼はメニューを眺めながら呟いた。
 私もメニューに視線を落とし、こっそりと平馬を見る。
 やはり、居心地はとてもよかった。上で回っている欧風な扇風機のようなものが妙に雰囲気があって、この店だけが日本ではないような、少し孤立した世界のような、妙な感覚に陥る。それでいて懐かしいような、田舎のおばあちゃんの家のような、落ち着いていられる空間。それもこれもこの空間に平馬がいるおかげだといえば、間違いなく惚気になるのだろうけれど。でも実際に落ち着くことができるし居心地もいいし、私としては願ったり叶ったりなお店であることは間違いない。そんなお店に彼氏と来る事が出来るのだから、私はとても幸せ者だろう。


 私はとんでくるはずも無い友人の肘鉄の感覚を思い出して、少しだけゾッとした。




 「そう言えば、この匂い何だか分かる?」
 平馬がいつもの様に話題を投げる。私は少し考えて、「…睡蓮?」と答える。
 「似てるけど、違う。これは、ジャスミンかな」
 「へえ、」木の独特な香りも混じっているから、少し分かりづらいけれど。「…そう言われればそうかもしれない」
 「そうかも、じゃなくて、そうなんだよ」
 「え?」
 「ま、いいけど」
 「ふうん、」
 彼は、たまによくわからない所を見せる。掴んだと思えばすり抜け、すり抜けたと思えば捕まえろとでも言うように尻尾を出す。策略なのかといえばそうでないともいえるし、天然なのかと問えばそこまででもないような気もする。他人から見た自分と自分から見た自分が異なるのと同じように、適当な事を適当に言いつくろって他人像を固める行為について、私はあまり好ましくないものだと思っている。恐らく、彼の不干渉さも私のそれと近いものがあるのかもしれない。けれど、やっぱり(そうだ)と断定するわけにはいかない。
 私は頼んだアールグレイのアイスティーを飲む。


 「あのさ、
 「うん」
 「呼んでみただけ」
 「え?」どこのバカップルだ、という喉まででかかった突っ込みを飲み込む。
 「が可愛いから、悪い」
 「平馬がカッコいいほうが、悪いよ」
 と言いながら、私はくすくすと笑う。


 「馬鹿?」と、首をかしげる平馬は右手にアイスティー。
 私は左手にアイスティーを持ちながら、「馬鹿って言った方が馬鹿だよ」とベタな言葉を返した。















 (20100703)(差異)とかいて(サイ)と読みます。笛、いつまでもだいすきです。そしてW杯ベスト16おめでとうございます!