「…ふむ、ではどうするべきか」 不破君は、喫茶店の丸テーブルの向かいでううんと悩みながら一人でもぞもぞと呟いている。こうなってしまえば私にできる事はただひとつ。不破君の考えがまとまるまで、じいっと待つことだけだ。私がいかに気長な精神力かということが試される。 私は机の上に並ぶ二つのカップに入ったコーヒーの表面をぼうっと眺めた。 私は短気ではないけれども、何事も寛大に許せるような聖人君子ではない。だから、このあいだ不破君が恋人の定義について悩み始めて十二時間もお互いに向かい合ったままの状態で無言を貫き通した時にはさすがに盛大に声をかけようかと思った。まあ、そんな事をしたところで考察中の彼の意識の中に割り込んで行けるほど私の存在はまだ彼の中では大きくないということは分かっている。だからそんな事をしても無意味な事は分かっている、けれどもやっぱり構って欲しいのがオトメゴコロというもので多分こんな事を言ったら不破君はまた女とは難しい生きものだななんていって苦笑するんだろう。ちょっと悲しいけれど、でも苦笑した顔もちょっとだけ見てみたいなんていう私のワガママ。心境は複雑。オトメゴコロも複雑。 「」 「なーに?」 不破君がこっちを見る。三白眼の黒目が私を捉える。私もじっと不破君を見る。 「結論をのべるとするならば、」不破君は言う。「俺にはまだよくわからない」 「…え?」 私はある程度の答えが返ってくると期待していたので、予想外の展開に驚きを隠せなかった。ゆらゆらとテーブルの上に載っているオシャレで可愛らしい蝋燭の炎が揺れる。まるで私の心の動揺みたい、と思いながら目を数回しばたかせた。不破君はそのまま考察を述べる体勢に入り、「まあ、そうだな…分かりやすく言えば」なんて言葉を吐き出す。 「俺には理解しがたい部分も少なからずあるということだ」 「そっか」 「というわけで、しばらくの間はを観察し様子を見ようと思う」 「そっか…って、えええ!?」 「何を今更驚く必要がある?」不破君がじっとこちらを見ながら首をかしげた。 「いや、ううん、…なんでもない!」 私は、あたふたしながら俯いた。コーヒーの表面に私の情けない顔が映って少しだけ複雑な気持ちになる。不破君のことは大好きだ。だからこそ、なんというか見つめられるだけでどきどきしてしまうから。 この状況が嬉しいようで、照れくさくて、もどかしい。 「どうした、具合でも悪いのか?」 心配そうに私の顔を覗き込もうとする不破君。 「…大丈夫! とっても元気だから…、ね!」 「そうか、ならいい」 ふっと不破君の口元が緩む。 不破君の一挙一動にどきっとする。ああだからやっぱり不破君が好きだなあなんて、思い知らされるんだ。不覚だ、恋愛は惚れた方が負けだっていうのに。不破君はそんな私の心境を知ってか知らずか、たびたびこうしてまだ彼女でもない私と一緒に喫茶店に入ってくれたりする。 ねえ不破君、そんなことしてると期待しちゃうんだから。 蝋燭が、静かに私たちの空気を揺らした。 蝋燭ゆらり
(20100910) 素敵企画ありがとうございます、参加できてとても嬉しいです。笛好きなみなさまに笛オーラが届きますように! |