(致死量以上の甘さ) これ以上あなたがわたしの前で微笑むとわたしが壊れてしまいそうになるから、やめてくれないかと彼に言えば彼はなぜだとわたしに問いかけた。なんであなたはそんなに罪深い人なの、問えばそんな事は無いと返される。ああなんてそっけない会話だと思われるかもしれないけれど、わたしにとってこの会話がどれほどの意味を持っているのかはわたしにしか分からなくてもいい。それほどに彼といる時間は甘く甘美で恍惚でそれ故に猛毒。 「不破君」 「何だ、」 彼は表情一つ変えることなく、その三白眼でわたしを見る。一目見られただけで皆こわがって近づこうとも寄り付こうともせず、クラッシャーと呼ばれ、初心者ながら風祭君の笑顔の真相を知りたいと言う理由でサッカー部のゴールキーパーを務める彼にわたしはもう既に心奪われていた。しかしどうしようもないこの思いは彼に伝わらないのだろうか。 「わたしの言葉はあなたには伝わらないのかな」 「何故だ」 首をかしげて彼は問い返してくる。 「ちょっと嫉妬したの」 「誰にだ」 「風祭君」 訳が分からないと彼はまたしても首をかしげる。淡々としたやりとりの中、募るのは私の想いばかり。重たい重たい、なんで私もこのひとに恋をしているのかわからないのにどうしてもやっぱりこの人の事をずうっと考えてしまう。恋ではないかもしれないけれど、哲学的に考えたらこれはきっと恋なんだ。自己暗示かもしれない、でもそうじゃないかもしれない。私にはちょっとばかり理解しがたかったけれどもやっぱり俗に言うそういうものなのかもしれない。 「不破君、ずっとわたしのほうを見てくれないもの」 「む、それは」違う、と言いかけて彼は思い当たる節があったのか思いとどまって考える。「確かに、お前を見ると焦燥感に駆られる事がしばしばある為に、しばらく目線を合わせないようにしていたがそれがどうかしたのか」 「そっか」 私は見ないようにされていたのかと俯く。 「俺はそういう感情に左右され試合に支障が出るとマズイとは思うが」と彼はわたしのほうを見る。「お前が嫉妬をしている事を聞き、少し嬉しいと思っている俺がいる」 突然の告白。それは彼らしくもある告白であり、彼から逃れられなくなっているわたしは思わず目を見開いて驚いていた。これは夢じゃないのかと思うほどにわたしは混乱していたので、思わず頬を抓ってみたら痛かった。そして気づけばわたしは頷いている。 「あなたがわたしに飽きるまで付き合うから」 自分でも口をついて出た言葉に驚いたけれど、不破君はそれを聞いてふわりと微笑んだような気がした。 「礼を言う」 「こちらこそ」 拍手第三弾。(20090820/追筆20100326) |