そういえば山口君が以前好きだった女の子は野球部の部長と付き合っていたらしい、というのを風の噂で聞いた。でも実際振られたのは山口君の方ではなくて、恭子ちゃんの方だと知ったときには、なんだ恭子ちゃんも女の子なのかと少し安心している自分がいて自嘲した。どうしてこんなに安心するのかといえば、それは私がよごれてしまった人間だからにすぎないのだろう。 私は結局山口君のお家にとりあえず一晩置いてもらって(まあ何も無かったわけなのだけれど)、それから土日とも泊まっていく様に山口君のお母さん(これがまた気さくないい人だった)に進められ、断りきれずに今日明日と泊まっていく事になった。金曜と月曜の授業はほとんどいっしょなので持っていく教科書の支障は出ない。ある程度の宿題も今持っているもので何とかする事が出来る。洋服は山口君のお姉さん(とても美人ないい人で、少し目元が山口君に似ている)に借りることになってしまったので心配は無いらしい。こんなにもお世話になってしまって、逆に何だか申し訳なく思う。 金曜日の夜、お風呂上りに少し不安になってリビングにいるお姉さんに 「でもいいんですか、こんなにお世話になってしまって」 と遠慮がちに問いかけた私に、山口君のお姉さんは「あ、別にいいのいいの」とケラケラ笑った。「どうせ、そういうの私がサイズ合わなくて着なくなった服とかだし、せっかくケースケが連れてきた可愛い女の子なんだから! いやあ、私さあ妹って憧れなんだよね。弟なんていてもぜんっぜん駄目だよ、妹のが可愛いし一緒にお買い物とか出来るもん! 弟だと途中でだるいとか面倒とか言ってもう最悪なのよね。あ、そうだ。せっかくだし明日にでも一緒に買い物行こうよ、迷惑じゃなかったらでいいんだけど!」 マシンガントークのように降ってきた言葉の情報量に流されて、私は気がついたら頷いていた。「マジで!やった!」なんていう喜び方は山口君そっくりだなあなんて思った。カッコいいお姉さんでいいなあ、なんて思う。私もこんなお姉さんがいたらいいなあ、と憧れる。私はお姉さんの座っている二人掛けソファの隣に腰を掛ける。 「じゃ、決まりね」 とウインクしながらいうお姉さんは、なんだか可愛くて不覚にもどきっとする。そのあとに「ケースケ、明日ちゃん借りるー」とお風呂場に向かって叫ぶお姉さんと、「はぁ? 何だよそれ」と不満そうな声の山口君の掛け合いを聞いていたらなんだか姉弟って羨ましいなあなんて思った。 「明日は全部私に任せて!」 「あ、はい!」 ぼうっとしていた私は慌てて答える。と、お姉さんがぷっと吹き出す。 「新鮮!」 そのまま私の座っているソファにどん、と座り直してその反動でソファがぼふん、と音を立てて衝撃を受け止める。私は少しだけバランスを崩す。気づけばお姉さんにぎゅうっと抱きしめられる。「はー、やっぱり女の子って良い匂いねー」 「え、…え?」 「うん、それなりに発育もいいみたいだし」 「…え! っ…ひゃあ!! いいい、いや、あの、それほどでもないですよう」 「ケースケにはもったいないー、ちゃん私が欲しいー」 「はやらねぇよ! …ったく、何してんだよ二人で」 どすどすと足音が近づいてくる。「あ、」山口君、と呼ぼうとして、でもみんな山口だ、と思いなおして「ケースケ君」と呼んでみる。 「『あ』、どころじゃないって! も嫌なら嫌って言えよー、うちのねーちゃん変態だから油断してると襲われるぜ」 「え?」私はよくわからなくて首をかしげる。 「はぁー」と山口君が大きくため息をつく。ため息をつきながら、カーペットに座る。「危機感もう少し持てよ」 「ちゃんは純粋だから仕方ないよ、可愛いし」 お姉さんがぐりぐりと私の頭を撫でる。まだぎゅうっと後ろから抱きしめられたままの状態で開放してくれそうにない。状況に全く付いていく事ができずに私は、うーんと首を傾げる。私は純粋でもなければ可愛くもないというのに。 「あ、俺そういえば明後日ユースの試合だからさ、よかったら見に来て」 「い、行きたい! 応援する!」 でも今はなんだか幸せだからいいか。しばらく談笑してからお姉さんの部屋で布団を借りて眠る事になった。 ▲ (20100920)この捏造すいません…でもこんなお姉さんほしい\(^o^)/ |