人生皆、変わらないことがある
 ヒトというものは単純明快ではない。
 人という字は助け合いでは出来ていない。
 人ほど、汚い生き物はいない。
 人とは、何のために生まれ何のために生きているのか。





 今まで考えてきた問の中で恐ろしいほどに、おぞましいほどによく出来ている難問だった。人は一生掛かりながらもこの恐ろしい謎掛けを少しずつ解き明かしながら生きていくのだろう。前者3つほど知りたくない事実はないというくらいに、社会というシステムも政治家という私利私欲のために動いている人たちも汚い。選挙当選といいながらも結局は自分が甘い蜜を衰退がために天下りの制度廃止をやめないのだ。結局人間にとって、一番可愛いのは自分だということではないか。


 ニュースキャスターが早口で単調に捲くし立てていく朝のニュースをぼんやりと聞き流す。何をするにも、ぼんやりぼんやり。恋する乙女というものはこんなにも、何も手につかないものなのか。と思うほどに私の頭は彼でいっぱいだった。…気持ち悪い、ぐらりと世界が歪んで私ははじけとぶように若女将につかみかかって……じゃなくて。


 ジュビロユース(だったっけ)にいるという噂の彼、将来サッカー選手。有望。そして好青年でカッコいい。嫌味なところは、盲目により見えない。カッコいいと思うのも、彼氏になって欲しいと思うのも、もし恋人になれたらなんて妄想するのもすべてアイドルに対してだと思えばどうってことはないのに。どうして手の届きそうな所で彼がちらついているのかが理解不能だった。いっそのこと、ただのテレビやアニメや漫画の中の住人だったらどれほどよかっただろう。


 私は食パンを口に押し込みながらぽんっと床に置いてある可哀想な鞄を手に取ると、玄関ドアから外へ出た。
 がらりと門を開けながらトントンと靴を履いて、ふと顔を上げれば道路の真ん中に横たわっている黒いものがある。なんだろうと思う間もなくその正体はすぐに分かった。つん、と鼻先に鉄のにおいがする。なんとツイてないのだろうか、ツキは私を見捨てたのだろうか、と思えるほどに惨たらしい死体だった。黒い猫だったものらしき肉塊は動くこともなく地に伏して血塗れている。ああ、埋めないと。と、私はその場に鞄を落とした。


 「?」
 はあ?
 と、喉まででかかった言葉を飲み込んだ。今この瞬間で声をかける奴がどこにいるだろうか、と問えばそこにいた。詰まりそうになる息を、張り裂けそうになっている胸を、早鐘のようになる心臓を、全部全部止められたらどれだけいいだろうか。真っ白になる頭を必死に文字で埋めながら、私は右の死角から私の視界に入ってきた山口君へと目を向けた。なんで、このタイミングでくるかなあ。どうせ来てくれるんだったら、駅のホームとかだったり校舎裏だったり屋上だったりすればよかったのに。


 「何して、」彼は私のほうを見て(私を見てくれている!)、少し近づいて、それから私の足元に視線を移す。「…!?」

 心境もなにもかもが複雑だった。
 沈黙が少し流れて、私が言葉に詰まりながら言う。


 「…埋めてあげようと、思って」


 山口君は一瞬だけ、ほんとうに一瞬だけ複雑な表情になって(…何か考えていたのかもしれない。)その場から去ろうとする私へと声をかける。
 「あ、あの、さ!」
 「え?」
 声を掛けられただけだ、というのに喉の奥から素っ頓狂な声が出る。恥ずかしくて、なんともいえない気持ちになりながらも、私は山口君の言葉を待った。話しているだけでも夢見たいだって言うのに、これ以上を望んでいる私が心の奥底で叫んでいる。今にも外に出てきそうになるそれを必死で奥に押し込みながら、私は至って平静を装った。


 「なあ、俺もそれ手伝ってもいいかな」


 少しだけ、山口君が真剣なまなざしでこっちを見るから。私は、ああもう後戻りなんてできないんだな、って言う事を知った。そのまま私の事が好きだって告白してくれたら、なんていいんだろうっていう妄想が広がっていく頭は、もう止められないって。自分が一番、知ってるんだ。































(20100704)