「せやから、自分とどういう関係なん」 「クラスメイトではないのか」 「そーいうんじゃなくてな、コレとかじゃあれへんの」 佐藤は小指を立ててコレコレと言いながら、俺の目の前の席を陣取りC組にまで乗り込んでこの時間中ずっと居座り続けている。あいにくこの時間は教師の出張による自習な為、五月蝿く怒鳴り散らす教師もいない上に授業は自習プリント一枚出されただけだったので既にやり終えてしまっている俺は仕方なく佐藤の相手をしている。さてについてだがは今までにないパターンの人間でありクラスの中でも俺を臆せずに普通に普通の奴らに喋るのと変わらないような口調で喋っている一人である。風祭も俺を恐れず躊躇いも無く話しかけている点から見るとどうやらと風祭は同類なのではないかと思う事もしばしばあるが、思慮の深さや頭脳の明晰さで言えばのほうが若干上回るかもしれない。しかしまだ風祭は未知数な為に比べるにはなにぶん情報が足らなさすぎる点が多い。 「恋人ではないな」 「不破センセはその気はないんかい」 佐藤が話すたびにちらちらとこちらに視線が集まる。どうやら俺と誰かが話しているのがよほど珍しい事らしい。生憎佐藤に言われて小声で話しているので奴らに声が聞こえると言う事はまずないだろう。そもそも話している教室がただでさえ五月蝿いというのも理由の1つにあげられる。その上、ひそひそと話している連中とは席も随分と離れている。更に言うならば俺と佐藤と言う異端の組み合わせが話していると言う事により、クラスの連中が面倒ごとに巻き込まれまいと席を移動した為に俺の席の周りにいるのは佐藤ぐらいのもので四方はほぼ空席に近かった。移動した奴らは皆一様におのおのの友人などの所へ行きながらプリントの空白欄を埋めているのだろう。自分のプリントならば自分で埋めるものだと思うのだが、このクラスの奴らはどうやらそうは思っていないらしい。 「その気とはどの気の事だ」 「いやん、とぼけちゃいやーよ」 「ふざけているなら帰って大人しく授業に出ていればいいだろう」 そのような事をしたところで時間の無駄だろう、と聞けば佐藤は「つれへんなー」などと言いながら本題に戻った。 「で、肝心なはどうなんや」 「何がだ」 「せやから、アレやアレ」 「アレでは何も分からない」 「の気持ちや」 気持ち、と言うのはどういう気持ちの事を言うのだ、と聞けば佐藤は恋愛についての気持ちと言う。それは俺に対する恋愛感情をが持っているか否かという質問になるのかと聞けば、「そや、どうなん?」などと聞いてきたものだが俺は恋愛に対する心理的な感情については全く分からないに等しい。そもそも胸が高鳴るや鼓動が早くなる、胸が苦しい、胸が締め付けられるようだなどの客観的ではなく主観的な表現を用いて説明された所で、読者には全く感情が通じないだろう。 「分からない」 「ほぉー、不破センセにも分からへんことがあるんや」 「何?」少しカチンと来て佐藤に言い返した瞬間に佐藤がニヤリと笑う。「俺を馬鹿にしているのか」 「不破センセは恋愛に関してはズブのシロートやからな、仕方あれへんのちやう?」 仕方が無いの一言で片付けていいことではない。分からない事は分かるまで探求しなければならない。その情報を佐藤が知っているならば、聞くまでだ。 「教えろ」 「何をや?」 「恋愛感情について知っている事を教えろと言っている」 「タダでは教えられへんなー」 「もったいぶらずに教えろ」 俺が腕を組みながら佐藤に眼を飛ばせば、佐藤は少し考える様子を見せてはっと何か思いついたように話し始めた。 「せやな、俺のプリントやるっちゅー話で1つ手を打ってやってもええな」 「本当か」 「本当や」 佐藤が真剣そうな表情になったので、信頼してもいいかもしれないという感情が芽生えた。この程度で謎が解けるのならば安いものだ。 「分かった」 「さっすが不破センセやわ〜、頼りにしてる」 「先程言った事を忘れたとでも言おうものなら覚悟しておけ」 「ほな、俺は屋上でも行ってくるわ、出来たら出しといてや」 「ふむ、いいだろう」 佐藤の言っていることは信頼できるようだ、さて後残り3分もあればこれはできるだろう。俺は佐藤のプリントに取り掛かった。
(This is a pen.)
▲ それはしげさんの恋の教科書。(20100101) |