クラス内にまことしとやかに流れる噂に翻弄されるクラスメイトの質問攻めは、とんでもなく酷いものだった。散々だ。いまだかつてないほどの質問の嵐にあった後の私はとんでもないくらいに意気消沈し、意識朦朧としていた。辿っていけば情報源が小島と上条というよく分からないコンビだと言う事を聞いてまず驚いた。ここまでするのかと少し口を尖らせれば、だって友達なのに言ってくれないなんて酷いじゃないとか逆に怒られてしまっては言い返すすべが無い。


 「佐藤に聞いたんだけど、映画館ってのはホントかしら?」
 「最近は休み時間もいつも一緒に話しているみたいじゃなくって?」
 「一緒に街中をデート!?」
 「クラッシャーと?」
 「さん、不破君と付き合ってたんですか?」


 小島と上条に加えて水野君と高井君まで入ってきては話が大きくなるなんて思いながら一人屋上で反論する。昼休みは質問攻めに会うまいとクラス内からいそいそと抜け出してきた私に待っていたのはサッカー部からの質問の嵐だった。全くもって何の意味も無い。結局結果として同じ質問攻めにあっているのだから。しかし幸運にも今日はミーティング名目で集まっているわけではなかったので不破君の姿は無い。それがせめてもの救いだろうか。まさか皆こんなになって調べようとするなんて予想外だった。なんてことだ。


 「デートじゃないってば」
 「じゃあ何なのよ」と、ぐいっと身を乗り出して聞いてくる小島。
 「付き添いみたいな?」
 私はお弁当の玉子焼きを頬張る。とても食べづらい空気である。
 「それはデートというものではなくって、さん」と、上条がこちらを勝ち誇ったような瞳で見ている。
 「お友達と遊びに行くのはデートじゃないと思うんだけどなあ」
 「せやけど一緒にチュロス食っとったんは確実にコレってことやろ」


 何処からともなく空から降ってきたように見えた佐藤君が私の前までツカツカと歩いてきてしゃがんだ。目線が合う。そして、ぐいっと近づいてきたので顔が近い。少し冷や汗が流れる。いや、一緒にチュロスを食べる所の何が悪いと言うのか。そもそも何で知っているのか。私は必死に考えてみた。考えて考えて考えて見た結果、あるひとつの結論にたどり着く。


 「佐藤君って実はエスパー?」
 「なわけないやろ、常識的に考えてお前とセンセが一緒に歩いとったんを後からつけとっただけや」
 「なるほど! だから映画に行ったの知ってたんだ」
 そうか、着いてきていたら行動の一部始終も見ていられるわけだし、私がチュロス欲しいとかなんとか言って買ってたのも見ていられるわけだから知っているのも納得できるわけだ。でもチュロスあげるのは普通じゃないのかな、でも佐藤君はなんだかシャーロックホームズのように私立探偵をしているような凄い人だと思った。私は改めて感心しながら佐藤君を見た。佐藤君がなぜか呆れたようにため息をついてアカンアカンと項垂れた。私が首をかしげると佐藤君は私を真剣な目で見つめて口を開く。


 「、気ぃつけんとますます考え方が不破センセに似てきとるで」
 「え?」ますます分からなくなって首をかしげる。「そうかな」
 ぬぬぬう、と考えると「ほら眉間にシワよってるで〜」なんて軽く額を小突かれた。あう、と思わず悲鳴が私の口から飛び出す。


 「ほんと、ってモノ好きだと思うわ」小島が弁当をもぐもぐとほおばる。「私だったら無理」
 「小島、俺も同感だな」
 水野の言葉に「…なんで不破なのか理解できないぜ」なんて高井君が言っている。不破君はいい人だよ!
 私はもぐもぐとお弁当を食べていると佐藤君がものほしそうに眺めていたので玉子焼きをつまんだ箸を空中で止めて「食べる?」と聞いてみた。
 「ええのん? シゲちゃん喜んで食べたるで」
 「じっと見てたから欲しいのかなと思って、はい」私は箸を佐藤君に向けると佐藤君は玉子焼きをかぷりと食べた。
 「うまいわー、ほっぺたおちそうやで」
 「ありがとー」


 佐藤君が少しオーバーにほっぺたおちそうなリアクションを両手でしてにこにことしているので私もまずいといわれなくてよかったーと思いながら肉団子をひとつ箸でつまんで食べる。もぐもぐと肉団子を味わっていると、皆がこちらを見て固まっている。私なんか変な事したかな、と思いながら佐藤君のほうを向けば佐藤君が必死に笑いをこらえていた。


 「そうね、こういう子だったわねは」
 「…そうなのか」
 「天然記念物級の天然だな」
 小島に続いて水野君、高井君とそれぞれため息をついて俯いている。上条は固まっているし、風祭君は私と同じようにきょとんとしている。ちょっと風祭君と目が合って首を傾げたら、僕はわかんないやと視線で返された。


 「私は普通の人間です」


 特に冗談で言ったわけではなかったが、私の言った一言で風祭と上条以外からどっと笑いが起こった。
まったくもって意味が分からなかった。みんなからかうのが好き過ぎるんだなあなんて思ったら私もおかしくなってきたので一緒に笑った。






(求めよ、さらば与えられん)
だけど、そんな事言ったってわかんないんだもん。

























(20100101)