休日レコードショップに行く事にした。好きなアルバムの発売日と言う事も合ったし最近ゆっくりした時間も取れなかったし羽を休めるためにどーんとお買い物をしようという気分になったのだ。ただの、きまぐれである。その途中でサッカー雑誌を立ち読みしに行こうかな、なんて思ってぶらりと本屋に寄ってみた。 私は確かに小学校までは監督にスカウトされたユースの練習に参加していたものの、中学にあがってからは義理母の猛反対によってあえなくチームを去る事になった。チームのメンバーはやっぱりみんな男の子ばっかりだったから、ちょっと異端なものを見るような目で見られていたときもあったけれどその中でも仲良くしていた奴らがいた。 久しぶりにどうしてるかな、なんて思い出してきっと中学生してるんだろうなと当たり前のような事を思った。時だった。偶然にしては出来すぎたようなタイミングで私が伸ばした手と誰かが伸ばした手が同じ本を掴んだ。あ、と思って慌てて手を離す。 「…すいませ、ん!」 思わず反射条件のようにてをひっこめて謝ると、相手が唐突に「あ!」と声を上げた。 「お前、もしかしてじゃ…」 「え?」私は俯いた顔を上げて相手の顔を見てようやく認識。「あ、真田!」 「久しぶりだな!」 「うん、ほんと偶然」私は、くすくすと笑う。「すごくびっくりした!」 記憶の中に残っている真田は私と同じぐらいの身長だったのに、あっという間に身長を抜かされてしまって今では頭一つ分くらい大きい。大きいな、なんて思って大きくなったねなんていおうとして親戚のおばさんみたいだななんて思って喉まででかかった単語を飲み込んだ。それにしても、声がちょっと低くなっててカッコよくなっててびっくりした。人って久しぶりに会うと全然雰囲気が変わってたりするのが、とても不思議で凄い。 「もまだサッカーしてるのか?」 「うん。でも、やっぱり親が許してくれないからサッカーの雑誌とかすぐ捨てられちゃうんだけど」 「うわ、それ最低だな」真田はあからさまに顔をしかめた。私は苦笑する。 「そうなの、女の子なんだから茶道とか華道とか弓道とか大人しい部活に入りなさいって」 「ひでー親。俺の家だったらぜってーそんな事ねーけどな」 「羨ましい。あ、じゃあ今度捨てられそうになったら荷物持ってくから」 「そんくらい俺にまかせろって。あ、そういえばってプロで活躍する気とかねーの?」 初めてだった。親の了承すらないのにプロで活躍するなんて思ってもいなかったけれど、出来るなら私だってそうしたい。でも日本で女の子がサッカーできる女子サッカー部がある高校もクラブも限られているし、やっぱりJリーグに比べては知名度も劣る。よってもしサッカーを本業にしようと思ったら海外留学のことを本格的に考えなければいけない訳なんだけれど、それはやっぱりお金のかかることで親の了解を得ずには海外なんていけそうも無い。 子供の無力感が、ちょっと憎らしかった。 高校は女子サッカーのある学校に行きたいななんて甘い考え、でもやっぱりプロになるなら海外へ行ったほうが可能性は広がるのは確か。でも資金の問題も親の了承も無ければ海外なんて行けっこない。悔しいな、と思って私は少し表情に出さずに落ち込んだ。 「……プロか、遠いな。なりたいけど、私には環境を切り開く力が無いし」 「お前ならなれるって! 悔しいけど、俺たちに混ざって練習してた中でも上手かったし」 「ありがと、真田」私はにこりと笑う。 「お、おう」 「そういえば、真田。今日練習は無いの?」 「今日は久しぶりに休みだって言ってたぜ」 「そっか、だから本屋さんにいるのか」 「まーな、これ買ってCDでも買いに行こうと思ってさ」 「あ、私も近くのレコードショップに行こうと思ってた」 私が思い出したように言うと、真田はニッと笑って「一緒に行くか?」と問いかけてきたので「行く」と二つ返事で返す。積もる話もいろいろとある。そんな話に花を咲かせるのも、たまにはいいかもしれない。旧友に会うのも、すごく楽しくて大好きだ。先ほどのサッカー雑誌は真田に譲って、私たちはレコードショップへと足を運ぶ事にした。 たまにはこういうのも、悪くないかな。 |