09

　そうそれは、いつもと同じようにやってきて、いつもと同じように去っていく日常の風景。
　クラッシャーとその名を馳せる彼に私の気はどんどん惹きつけられつつあって、そんな思いを知ってか知らずか中学生離れしているその頭脳明晰な彼は私を格好の話相手だと目をつけたようで暇があれば話しかけてくる。そのたびに、この不甲斐ない胸の高鳴りは抑えきれるようなものじゃなくなっていくし彼の唇の動きの一つ一つに見入ってしまう私がいる。もうどうしようもなく気持ち悪い感情なんだな、なんて思いながら私は彼の全てに夢中だった。

　「」

　昼休み中に小島がいつもと同じように弁当を食べようと誘いかけてきたので私は彼女と共に屋上に来ていた。
　「なあに、小島」私はご飯を一口食べる。小島はいつも通り無遠慮に単刀直入に本題に切り込んできた。

　「って不破とどういう関係？」
　「それはどういう意味の話で？」
　「そういう意味の話で」

　そういう意味、とはおそらく色恋沙汰についてのアレだろう。特に私としては何も無いつもりだ。それに彼とはおそらくこれからもこんな関係が続くのだろうと思う。互いに論議して賛否両論の話をしてそれからそれぞれの用件に戻る、そんな関係。お互いに平行線をたどり続け、決して交わる事はない。だからこそ続いていくような、そんな理想的な関係。というのは私の解釈でしかないけれど。

　「友達じゃないかな」
　「え」
　「だって特に何にも無いもの」
　「そっか」

　少し何だか残念そうな小島。何を期待していたのだろう。でも何も無いのは事実。私は弁当に入っていたウインナーを頬張る。肉のジューシーな脂が口の中に広がり、やっぱりウインナー美味しいななんて思った。目の前に座っている小島が玉子焼きを箸でつまみながら、私に問いかける。
　風が心地よく吹き抜けていく。

　「はどうなの？」
　「え？」
　「気持ちよ気持ち」
　「複雑かな」
　「ふーん。まあ脈が無いわけではないって事ね」
　「噂になってるとか何とかそういう事でしょ」
　私がカマをかけると、小島がギクリとして複雑な表情をこちらに向ける。図星のようである。

　「その顔から推測すると、サッカー部その他女子からの間から流れた噂の真髄を確かめに来たって所かな」
　あってるよね、と言って私はおひたしを口に運ぶ。
　何故分かった、と言う表情の小島。「あんたまた不破に似てきたんじゃないの？」
　「そんなことないよ、私はいつも通りだし」
　「そんな事あるわよ」
　「ないって」
　「ある」
　「ない」
　「ある」

　押し問答になり始めた会話を途中でさえぎったのは扉が開く音で。
　ぎしい、ときしんだ音に会話をやめて振り返ればそこに立っていたのは不破大地そのひとだった。顔に出ていないといいななんて思う。彼を見ていると込み上げてくるこのどうしようもなく訳の分からないような複雑な気持ちに私が堪えられるはずもなく彼から視線をずらして小島のほうを向けばなんだかしてやったりみたいな表情。ちょっとどういうことかわからなくて小島の頬を引っ張る。

　「謀ったな！」
　「なんのことかしら」と言ったつもりだろう小島のろれつは回っていなかった。にゃんのことかひら、と馬鹿にしたような声が響く。と、まあ不破の後ろからぞろぞろとサッカー部の面々がずかずかと入ってきたので私は何だそういうことかと一安心して小島の頬から手を離した。

　「さ、今から作戦会議を始めるわよ！」
　「だりー」とそんな声が聞こえてきて、そいつが小島の鉄拳を食らったのは言うまでも無い。

（これが恋なのか）

そんな事を、ふと思ったりした。

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（０９１２０６）