「これとか、面白いかな」
 「うむ、まあこれでも良さそうだがな」
 「じゃあこれにしようか」
 「そうだな、お前が決めるといい」


 私たちはチケット売り場までたどり着いていた。少し薄暗い映画館でオレンジの照明がとてもオシャレだ。チケット売り場の列に並んで順番を待っている間、緊張は少しだけほぐれた気がするもののなんだか人に見られているようで気恥ずかしさが残る。自然と体温が上昇して顔が火照る。順番が回ってくる。あああついあつい、なんて思いながら顔に出ないように必死に頑張って映画館のお姉さんにチケットを頼む。


 「え、っとじゃあこれで」
 と映画のタイトルを指を刺せば、お姉さんは手馴れた動作でレジのキーを押していく。ほう、とそのキーを打つ速さに感心しているとあっという間に情報を打ち終わった様子でチケットが二枚分機械から出てきた。お姉さんが丁寧なマニュアルどおりの動作で、チケットをこちらに二枚差し出してくる。
 「中学生二人ですね、1600円になります」
 お財布から二人で千円ずつ出しておつりを貰って、財布に入れる。腕時計を見れば映画が始まるまでまだ少し時間が合ったので、私は売店の列と向かった。映画館といえばやはりあれが無ければ始まらないだろうなんて子供っぽい固定概念に過ぎないと思うのだけれどまあ気分的にそんな感じかななんていう私の考え。


 「何か買うのか?」
 そんな不破君の言葉に、「ポップコーン」と返すと眉をしかめられた。
 「音が煩くないのか?」
 「じゃあチュロスにしようかな」
 「甘そうだな」
 「不破君、甘いのは苦手?」
 「苦手というわけでもない」
 「食べる?」
 私が聞くと不破君はきょとんとして目をしばたかせた。「美味いのか?」
 「おいしいよ」私が笑顔でチュロスを頼むのを尻目に、不破君は少し考えるポーズで考えていた。お姉さんにチュロスを一本頼む。料金と引き換えにチュロスを貰う。ほかほかとまだ温かいチュロスを一口頬張る。シナモンの甘い香りが口の中に広がって幸せな気分になった。不破君にチュロスを差し出す。とりあえず一口食べたらどうかと思ったのだ。不破君がチュロスをかじる。
 「どう?」
 「初めて食べたが、ドーナツのような食感だな」不破君は考えるポーズに戻る。「ふむ、こういうのが好きなのか」
 「うん、」私はチュロスをかじる。「甘くて美味しいから」
 「そうか」


 不破君が何か言おうと口を開いてまた閉じる。なんだろうと思って聴こうと思ったら館内アナウンスで館内への入場が始まったという事を聴いて私たちは劇場入り口へと向かう。入り口に立っているお兄さんにチケットを渡すと何番のどこどこですーなんていう説明が帰ってきた。劇場の番号を確認しながらここだねーなんて言いつつ劇場に入る。まだ人はまばらでみんな自由に席に座っていた。どうやら半券に席の番号が書いていない所を見るとここの映画館は自由席のようだったので適当に見やすそうな真ん中あたりの場所をえらんで二人で腰掛ける。中堅ほどの広さの映画館で、広すぎず狭すぎず、ちょっとしたホールのような広さを誇っている館内だった。スクリーンもそこそこ大きい。


 「あのさ、不破君」
 「なんだ」
 「さっき何か言いたそうにしてたけど、どうしたの?」
 「いや」不破君は珍しく口をつぐんだ。「言うべきか何も言わないべきか悩んでいた」
 「え?」


 私が首をかしげると不破君がチュロスを指差す。チュロスが欲しいのかと差し出すとそういうわけでもないらしい。どういう訳だと思って考えて見ても分からない。どういう事? よほど渋い顔をしていたのだろう、不破君がふう、と息を吐き出した。


 「知らぬが仏というものだろうな」
 「え、そんな!」


 こんな気になる展開のまま終わってしまうのかなんて考えれば考えるほど謎が深まっていくし何が不破君に引っかかっているのか気になってしまってしょうがないし私の顔に何かさっき食べたチュロスのシナモンの粉がついてるとかそんなのじゃないかと思ってチュロスをまた一口食べた。なんてはしたないんだろうと思いながらも拭くのは全部食べ終わってから出いいかな、なんていうすごく適当な考え。


 人がだんだん増えてきて、半分くらいが埋まった所で、びー、という映画の始まる音が聞こえた。












(その不器用さが愛しい)































私クリスマスこんな感じで過ごしたいな。え、バイトですが何か。\(^o^)/(20091224)