唐突に彼の家に転がり込んだ私は、何だか暖かく歓迎されてしまった。


 「あ、姉くるなら言ってくれればいいのに!」
 「そうだよ、あ、でもお兄買い物に行ってるよ!」
 玄関ドアを開けて出てきたのは可愛らしい双子。いとこの黒川宅の妹たちである。しばらく見ないうちに両者見分けがつくようになっているのは私の認識力が高まっているからなのだろうか。そう思いたい。私は玄関で私の手を引っ張っていち早く部屋に上げようとしている二人にニコリと微笑みかける。
 「久しぶり! じゃあマサ君来るまで少し待ってるけどいいかな」
 「いいよー」


 リビングでも私に飛びついてじゃれてくる二人の頭を撫でながら、先ほどまでのわだかまりが若干ながらも消え去っていたのに気づく。ああやっぱり落ち着くなあなんて思っていたら丁度ガチャリとドアが開いて「ただいまー」なんて声が聞こえてきた。マサ君だ。最後に私がここに来てから会っていないから、かれこれ一ヶ月ぶりの再会になる。いとこが近い場所に住んでいると、頼りたい時に甘えてしまうから私はいくらでも彼の事を頼ってしまう。でも彼以外に私の家庭事情を知っている人がいないから、だからどうしても彼に頼らざるを得ない私がいる。自立できるならしたい。でもまだ子供だからという理由で自立出来ない弱い私がいる。最低だ。



 「おかえりー!」と彼のもとに飛びついていく双子について私もリビングから腰をあげる。
 「誰か来てるのか?」
 「うん、姉がきてる!」
 「すごい可愛くなってる!」
 マサ君に口々に報告する双子達につづいて私は玄関口のほうへと顔を出す。


 「お邪魔してます」
 「来てんなら連絡くらい入れとけ、
 「ごめんね」えへへ、と笑えば彼は私の無理したような笑い方で全てを察したらしく無理すんなよ、と小さく呟く。それに小さく頷いた私は、双子をリビングへ連れて行って教育番組にチャンネルを換える。ちょっと大事なお話してるから待っててね、と一言双子に言えば「はーい」と元気な返事が返ってきて自然と笑顔になった。リビングに行ったついでに私は家から根こそぎ持ってきた荷物の入っているボストンバックを持ってきてマサ君に向き直る。


 「荷物預かって欲しいんだ」
 今回の用件を単刀直入に彼に告げる。彼は私のボストンバックを見ると、「またアイツと揉めたのか」と一言。私は頷く。
 「無理すんなよ」
 「分かってるよ」
 くしゃくしゃと頭を撫でられて、私は溢れ出しそうな涙と爆発しそうなくらい積み上げられている色々な感情を全部吐き出しそうになってしまって少しこらえる。マサ君がいて本当に良かったと思った。彼がいなかったら私はきっと精神不安定で家から飛び出して、もう家には帰らないなんていう家出少女になっているだろう。好きなものを好きだと言い張れない家柄が悲しい。好きなものに正直になれない私自身が情けない。


 「今日、晩メシ食ってくか?」
 「うん、手伝う」
 「荷物、置いてきてやるから大根は頼んだ」
 「うん、ありがとう。大根いちょう切りは完璧だから」
 荷物をマサ君に渡す。マサ君はその荷物と引き換えに大根の入ったスーパーの袋を私に渡す。彼の背中をぼうっと見送る。


 彼の優しさに、溺れてしまいそうで。今の私は、何も出来ない無力さでいっぱいで。
 逃げたくても、逃げられなくて。戦わなくちゃいけないと思っても戦える武器すらなくて。
 でも負けたくないから。私は頑張らなくちゃなんて、精一杯の悪あがき。


 それでも、今だけは彼に頼っていたいなんて一瞬の甘え。
 だって彼は私のヒーローだもの。












(ファンタスティック・ヒーロー)
されど親戚、だから親戚。































(20091206)