今日の天気は雨。それは天気予報とは確かに違ってはいたのだが昼ごろから降り続いて帰りに止むといわれていた雨は六間目になってもいまだに降り続いている。私にとって特に意味の無いテレビ番組を見ているのは天気予報で天気の状況を把握するためが最重要要綱である。後は名前も知らないニュースキャスターの持論からなるニュースの断片的なものを聞き流すためだけにすぎない。


 学校に来ているのは授業を受けるためだといったら、一体クラスの何人が同意するだろうかと考えて見たが同意してせいぜい不破君くらいのものだろう。そんな事を思いながら私は数学の授業を話半分に聞いていた。この問題の解法なら、前回の授業の時に習った方程式と数学の教科書に一通り書いてあるような公式を当てはめていけばいいはずだ。だから少し気を抜いていても大丈夫。私は先生が器用な文字でさらさらと黒板に書き進めていく文字をつらつらとノートに書き写す。ちらりと一瞬不破君と目があったような気がして、そんな事ないかな、なんて少しの自惚れ。


 窓の外をふと見れば雨は止むどころか、どんどん酷さを増していた。何でこんな土砂降りになってしまったのかと考えてふと今朝の新聞についていた観測船「あさがお」から送られてきた写真を思い出す。そういえば、変な低気圧の雲があったような気がする。あれ、雨って低気圧だったっけ、なんて考えていたら先生に名前を呼ばれた。


 「問3の二問目だ、解けるな?」
 断定的な質問に「はい」と一言答えて前に出て行くと白いチョークを渡される。何だ簡単な問題じゃないかとすらすらと方程式に当てはめて解く。チョークを置いて席に戻ると、先生は「よろしい」と渋い顔で黄色のチョークを持ち、私の回答に丸をつけた。私が解けないはずが無いでしょ、と心の中だけで思う。




 だらだらと続く授業も終わりを告げたがざあざあと降り続く雨が止まない。
 起立の号令で立ち上がり、礼をする。終わったーなんて声が何処からか聞こえてざわざわと教室内に喧騒が広がる。私は窓のほうをチラリと見て、相変わらず窓に打ち続けられている雨粒をぼんやりと眺めた。帰りの準備を進める。


 「
 急に呼ばれて何事かと思い振り返れば、それは隣の席からの呼びかけだった。不破君だ。
 「なあに?」
 「今日の部活はミーティングだそうだ」
 「雨だから、仕方ないよ」
 「そうだな、」彼は考えながら言う。私は授業の用意を鞄に詰め込む。「集まって話すのも興味深い」
 「不破君はまだサッカー始めたばかりだから、みんなから色々教えてもらうといいよ」
 「うむ、そのつもりだが俺の事を良く思っていない輩も少なからずいる」
 「でも、いい人だと思ってる人もいるでしょ?」
 「風祭か?」
 「うん、あと野呂君とか」
 不破君は考える。「あとはくらいか?」


 「うん……、あれ?」私は唐突に私の名前が入っていた事に気づくのが遅れる。「私?」
 「違うか?」
 不破君が真剣な瞳でこちらを見据えてくる。どきどきするから、少し視線を逸らしたくなるけど、ここで逸らしたら負けな気がして逸らさずに答える。


 「えっと、…違わない」私はしどろもどろに成りそうになる自分を抑えて、何とか答える。
 「ふむ、まあ基本は大体覚えたが細かいルールはいまだによく分からない部分が多々ある」
 「うん」
 「これから色々と教えてくれるなら俺はとても助かる」
 「うん、私でいいなら」


 ホームルームが始まり先生が明日の準備を伝えにやってくる。私たちはそれが終わると部室へと向かいミーティングに参加。話し合いは今後の練習の予定と試合の日程についてなどで、細かい所は割愛。部室から出た所でざあっという雨の音が部屋にこだました。ああ、まだ降ってるなんて思いながら私はため息をつく。
 ぼうっと空を眺めていると横を通り過ぎようとしていた風祭君が不思議そうにこちらを見ている。


 「さん、傘は?」
 「忘れちゃって、」私は苦笑する。「走って帰ろうかなって思って」
 「え、そんな風邪引いちゃうよ!」
 外へ出て行こうとする私を慌てて制止する風祭君。風祭君を大丈夫、となだめて前に進もうとする私。
 「一日くらい濡れても大丈夫だよ、多分」
 「大丈夫じゃないよ!」


 「入っていくか」
 私と風祭君との会話にすんなりと入ってきた不破君は外に出るタイミングで大きな黒い傘をぱっと開いた。


 「え、でも、悪いよ」
 私はぶんぶんと首を振る。嫌なわけじゃないし寧ろ入りたいくらいなんだけど、でも不破君の家って逆方向じゃなかったかななんて思って。
 「お前が風邪をひいたら俺は誰にサッカーのルールを教えてもらうんだ?」
 「あ。風祭君とか」
 「ごたごた言わずに入っていけ」
 「え、うん、ありがとう」不破君にぐいっと顔を近づけられて、私はもう死んでしまうんじゃないかとか思って。
 絞り出した声は今にも消えそうな蚊の鳴くような声で、私は少し恥ずかしくて俯いた。


 私は気を取り直して、皆にばいばいと手を振る。
 「じゃ、また明日」




 気がつけば相合傘だったなんてもう幸せすぎて死んでしまうんじゃないかななんて思っている自分がいて、なんて気持ち悪いんだろうと自分の感情に自己嫌悪せざるを得なかった。でも、やっぱり私はこの人が気になるのかもなんてちらっと彼のほうを見ればちょっと目が合ってびっくりして目線を戻す。
 これといった会話なんて無かったけれどこんなに至近距離でいられるなんてそれだけで幸せ。ざあざあと降る雨に今少し感謝した。












(また明日、と云える幸せ)






























あなたに伝えられる幸せ。あなたと一緒に居る幸せ。(20091206)