「私が言ったらオッケーだったけど、アニエスさんがいくら頼んでも駄目でキイイってなってた」 へらへらと向かい合ったテラスのテーブルで笑う。いつも通りに通常営業しているらしい片手のシェイクを見て、呆れたカリーナはビルにくっついている巨大なスクリーンへと目を向ける。大型ファストフード店のCMが流れ始め、ひょこひょことがファストフード店の制服姿に身を包んで出てくる。『ボンジュ―? ハロー! 毎日おいしい、ミルクシェイク! シェイクシェイク! シェイクシェイクシェイクハンド〜!』と、おなじみの宣伝用メロディーを彼女が歌っているらしい。彼女が全5番まであるその歌を全てipodに入れているのは知っていたしそれくらいシェイクが好きなシェイク狂でファストフードジャンキーだという事も知っていたはずだが、スクリーンから流れているその歌を聴きながらカリーナは少しだけ羨ましく感じて彼女に嫉妬する。友達なのにあのダサい歌を歌ってるだけで嫉妬するなんて、と思うカリーナだったが可愛らしい彼女をいままでメディアが放っておいた方がおかしかったのであると思い直す。 文武両道、才色兼備で尚且つ美人。ハイスクールと大学のSATにミドルスクール卒業で高得点を叩きだし、見事入学を決めた武勇伝を持つ女の子である。ただ大食いなのが玉にキズだが、それもスポンサーとしてあのファストフード店がついてくれたら鬼に金棒だった。本当に恵まれていると思うしモデルにまでスカウトされてしまうなんて本当にすごい。あの事件後、一気には時の人でありその容姿もあってファンが大幅に急増。アポロン社からうっかりグッズやプロマイドなるものが出ていると知って唖然としたほどである。道を歩けばその容姿からサインを求められることはしばしばあるしカリーナもかわいらしい容姿をしているせいかナンパも多い。シェイクでつられそうになるを現実へと引き戻しショッピングを続けるのも大変だった。 「ほんとすっごい人気ね、」大きなため息をつきながら、彼女と同じシェイクを一口飲んでカリーナが言う。「一日で何人にナンパされてるのよ! それに全部ついていってシェイク奢ってもらおうとするなんてほんと呆れる」 「だって! シェイク奢ってくれる人に悪い人なんていないよー」妙な持論を展開するに、そんな訳は無いでしょとカリーナは内心で突込みをいれる。願わくばこの天然が変な人についていかない事を願うばかりだった。そもそもナンパされてついていったとしても、彼女のいささか旺盛すぎる食欲に相手がドン引き。その結果としてご飯まで食べて終わるのが日常パターンらしい。それが彼女の『シェイク奢ってくれる人はいい人』という説に拍車をかけているのはもはや決定的だった。 「はいはい、シェイクぐらいなら私が奢るから知らない人についていかない事ー」 「わ、わかった!」 いつも通りファストフード店で注文を済ませ(と言っても今回はかなり少ない)バーガーを3つとシェイク二つ、ポテトのキングサイズを頼んだ彼女と一緒にポテトをつつく。いつも通りこの世で一番おいしいものだと言わんばかりにファストフードを頬張る彼女に、これってそんなにおいしかったかとカリーナは疑問に思う事も多い。脂肪も塩分量もカロリーも高いこの食べ物を毎日こんなに食べていながらも、至って彼女は健康的だった。前々からと昼食を共にしていることが多かったが、彼女の体型が崩れることはなく普通のティーンエイジャーとしてスタイルのいい方に部類されるような体型をしている。モデルもこなしてしまうのだから、その体系の良さは折紙付きといった所だろうか。 「ホント不公平よね」 はぁ、私なんて気を抜いたら太っちゃうのに。とお腹周りを気にしながらポテトを食べる。 「何が?」 「は気にしなくっていいの!」 「そう」 もぐもぐとバーガーの最後の一口らしいかけらを食べ終えて包装紙をくるくると丸める。は二本目のシェイクをずるずると啜り、ポテトをもぐもぐと食べ始めた。本当に食べるのが早い、そしてよく食べる。カリーナはだんだんとこの量を食べる女の子が日常となってきているせいか、ハイスクールの友達とこういう所に来た時に「それだけ?」と疑問に思ってしまうが普通はセットが一人前なのである。いつの間にか最後のポテトを食べ終わっていた彼女が充電完了とにへらとだらしなく笑う。 「じゃ、後半戦ね!」カリーナは午前中に買った荷物を持って席を立ちあがる。 「よし! じゃああそこの新しくできたお店に行こう私あそこの社員証貰ったから全品30パーセントオフで買えるよ」 「本当に! やったあ! 私あのお店前から気になってたのよ、さすが!」 「うん! ありがとう!」 晴れやかに笑う。スカイハイと同じレベルか、それ以上に知識がある分だけ性質の悪い天然を誰かなんとかしてくれないだろうか。残念ながら、そのカリーナの願いが天に届くことは恐らく……ないだろう。
(20110827:おだいソザイ▲ ブルーローズ回、こんな調子で日常もつらつら。※SAT:アメリカなんかで大学入学の参考にする試験。2400点満点。ヒロインは2000点を超える高得点で試験官を唸らせた)
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