が犯人に首を絞められている。きりきりと。黙って見ていることが出来なくてイワンは思わず飛び出したけれども、犯人がパワー系のNEXTだったために簡単に弾き飛ばされてしまう。本当に情けのない男だと自己嫌悪がイワンを襲う。彼女は首を絞められていると言うのに至って平然と犯人を見つめながら首をかしげている。本当に強いひとだ、とイワンは思う。僕とは大違いだ、と。犯人に対して無益な行動はするなとでも言いたげなのその表情からは、彼女が苦しんでいるようには見えなかった。けれどもこんな時にもヒーローっぽいことが一つもできない僕は、本当にヒーローとして大丈夫なのかとイワンは疑わしくなる。


 イワンが彼女とここ、犯人のアジトに潜入したのは今から一時間前。



 「では、行ってきます」
 「後は頼んだよ、ヒーロー諸君。シュテルンビルトの平和は君たちにかかっている」
 アレキサンダー・ロイズに擬態したイワンと、相も変わらずだらしなくシェイクを啜る。彼女はシェイク片手にストローを口にくわえたまま話すので少々滑舌がおかしい。しかしながらそんな事を気にすることもなく彼女はぼんやりと隣にたたずむ表面だけ父親に擬態しているイワンを見た。彼の能力がどこからどこまで擬態が可能であるのか、彼の人間としての質量はどのように変化しているのか少々気にかかっているらしい。動物や植物、ましてや無機物には擬態可能なのか、さまざまな疑問が駆け巡る。じいっと見つめられるのに耐えかねたらしいイワンが「あのう、」と照れ臭そうに口を開くと、はハッとしたように我に返る。

 「気分を害したなら謝る、申し訳ない。あまりにも父そっくりだったものだから」
 ぱちぱち、と長い睫でまばたきをしながら折紙サイクロンを見る。彼がアレキサンダーの姿で照れ臭そうにする様子を見てなんだか新鮮に感じる、こんな父の姿は見たことが無かった。ストロー口にくわえたまま、シェイクにの容器に挿す。そのままずるずるとシェイクを飲むと、カリーナがため息をついた。

 「もうちょっと音をたてないように飲みなさいよ」
 「ごめんごめーん」が気の抜けたように謝るが、その言葉に反省の色は垣間見えない。カリーナが呆れたように「反省の色ゼロね」と言うが本人はどこ吹く風のようだった。「はいはいー」

 「それにしてもほんとによくできてるよなー折紙、どっからどー見てもロイズさんだしよ」
 「ハッハッハ、本当にどこからどう見ても私だ。これで犯人に怪しまれることは無いな!」



 折紙が擬態したアレキサンダー・ロイズを本物がニコニコしながら眺めている。とてもシュールで面白おかしいツーショットには少しだけわらいをこらえながらシェイクのおかわりとハンバーガーを手に取る。「アンタまだ食べるの? ホントそんなに食べて太らないなんて反則でしょ?」カリーナがぶつぶつと文句を言う中でが「全部脳のエネルギーだよ、どっかーん!」と気の抜けた返事。



 「ならそれが有りそうだからこわいわ」
 「ん? 脳以外にエネルギーがどこへ行くのカリーナ?」
 「もういいわよ! 別に、そんなこと興味ないし! 普通の人は違うのよ!」
 「カリーナは違うの?」
 「間違いなくアンタとは違うわよ! もう、悪かったわね!」
 「カリーナは食べても食べなくても可愛いから大丈夫」
 へらり、と笑うにカリーナは反論する気を抜かれる。「アンタには適わない、スカイハイもびっくりの天然よね」
 「私よりスカイハイのほうが天然だって!」
 「そうかい?」自然と会話に入るキングオブヒーローには「そうそう」と相槌を打つ。彼は天然の意味が分かったのか分かっていないのか、「ありがとう、褒めてもらえて光栄だ! そしてありがとう!」とにこやかに返答する。
 「どうしたしまして!」
 またしてもへらり、と笑うに「そろそろ時間です」とSPから声がかかる。



 「気を付けてね!」「気をつけろよ!」なんて声に「行ってきます」と無邪気に答える少女は、年相応の笑みを浮かべていた。















 『何故能力が発揮されない!?』
 犯人がまどろっこしそうにを投げた。彼女はくるりと空中でバク宙をして猫のようにしなやかに着地する。犯人がギリ、と奥歯をかみしめる音が聞こえたような気がした。人質はイワンとが捕まってから全員解放されて、今はアフターケア中だろうと思われる。外傷がなくとも、心の傷は深く、犯罪者の手に一度でも落ちたならトラウマを一生引きずることになるかもしれない。



 『君たちに使う能力など無いと、私の中の能力が言っている』
 『このアマ……!』
 殴りかかる犯人をひらりと避けてその勢いを使って犯人を投げ飛ばす。見事な合気道の技が犯人にモロに入る。四人グループである仲間のうちの一人は床で伸びることになった。畜生、なんだあいつ、なんて声が聞こえる。アニエスが首のリボンの中央に仕込んだ小型カメラは、床に伸びている犯人を映してから、残りの三人へと向いた。その様子を見ながら、アニエスは呆然とその様子を眺める。ちゃっかり折紙サイクロンが見切れている。
 


 「どうなってるのよ、これ!」
 「えっ、何がですか?」
 信じられない!とアニエスは叫ぶ。「・ロイズ がこんなに強いなんて完璧に予想外だわ」
 テレビ映像を受信しながら映像を編集しつつテレビで流してもいいものかどうか、彼女は判断を決めあぐねていた。もしかして彼女なら立派なヒーローとして活躍できるんじゃないかという考えと、それをアポロンの彼女の父親が賛成するかどうかという疑問、そしてヒーローとして活躍するならば素顔は今見せたらまずいのではないか、という先を見越した考え。メディアとして視聴率を取らなければいけないことは分かっているのだが、もしかして今後活躍するかもしれない彼女の素顔を今はまだ晒すわけにはいかないと言う結論にアニエスは至ってニィと口角を釣り上げる。また変な事考えてる、と部下に思われるのにはそう時間がかからなかった。










(20110821:おだいソザイ イワン君の空気加減はんぱない)