「人質もあの犯人が素直に解放するとは思えませんし恐らく犯人の目的としているNEXTは私ですから私が行かなくては意味がありません。社長はアポロンメディアの危機として捉えていますが、私の素性を知っているのは上層部のみ。どこからか入手された機密情報を犯人が仕入れているなら、その手のハッカーやクラッカーが犯人たちの中にいるはず。私より社長の身を守ることが先決でしょう? SPをつけておいてください。それから、ヒーロー事業部の担当者でありワイルドタイガーとバーナビーの上司であるアレキサンダー・ロイズを人質としてとりたいということは、アポロンメディアになんらかの悪意がある者の犯行かも知れない。それに犯人の目的の一つが私の能力だったとしても、自分の能力くらいは私自身で管理はできますし不調だと言えばおそらくしばらくはシュテルンビルトは安全でしょう。犯人が私に目を奪われてシュテルンビルトから目を離している間、そのうちに手の空いたヒーロー達を護衛として連れFBIで爆弾の処理を願います」



 淡々とした彼女の口調にユーリや上層部は口をつぐんだ。緊張感もなく三個目のシェイクに手を伸ばしながらチーズバーガーを食べる彼女に上層部は無言で睨みつけるだけにとどまる。実に的を射た作戦でもありながら、自らを危険に晒すことを何とも思わないような呑気な態度。そして次の瞬間には「ハンバーガーあります?」なんてその口は告げる。先ほどの理にかなったような言葉とは180度もかけ離れている言葉に、やはり上層部は苛立ちを抑えきれずに彼女を睨んだ。間もなく彼女の元へとハンバーガーが運ばれてきて、チーズバーガーを食べ終わった彼女は嬉々として彼女はハンバーガーに手を伸ばす。彼女の座る机にはもう既に何個のもファストフードの包装紙の山があり、ここに来てからどれだけ彼女がファストフードを食べたのか察することができた。女性としての食品摂取量をはるかに超えているが彼女はそれで太る様子も無ければ、お腹がいっぱいになったと言う様子も見せなかった。全てのエネルギーはどこへ行っているのだろうかと言う疑問を空しく受け流すように、パリパリという包装紙をはがす音と、香ばしい肉の香りが会議室に広がって誰かが咳ばらいをした。





 「間違いか間違いではないかは試してみない事には分からない世界です。しかし、私が今発言したことは私がシュテルンビルトに住む一般市民の安全を第一として考えた結果です。私が捉えられるリスクは確かに大きいかもしれませんし、そして捕まったことによるリスクも心得ています。ですが、今私を差し出さなかったせいで何十万という市民の命を灰にする気は私にはありません。私のせいで罪のない命を灰にする気はありません」



 「君の父親はどうなる? 人質として君と共に犯人に差し出すのか?」
 ユーリが口を開く。彼の視線はを試すようにきらりと怪しく光るが、は本日四本目のシェイクにストローをさしているところだった。ぱちぱちと瞬きをすれば彼女の一般人にしては量のあるまつ毛が上下に揺れる。シェイクを持ち上げて啜ると、彼女は一息ついて口を開いた。



 「いいえ。折紙サイクロンの能力を使い、父に擬態してもらって潜入します。彼と定期連絡を取れば内部の情報がこちらにも伝わるでしょう、期を見て潜入を試み、犯人の逮捕をしていただければと思います。人質は上手く行けば、私たちが人質になった時に解放されるはずなのでその場合の人質の救助に当たる人物も決めておいていただければと思います。なにしろ危険ですから」



 淡々とした感情のなさそうな口調では言葉を紡ぐ。ずるずるとシェイクを飲む。局の人間が顔を顰めている中でただ一人、ユーリは面白いと言いたげに口角を上げた。



 「わかりました、貴方の作戦を飲みましょう」
 「責任はどうするんですか……! いざとなった時責任をなすりつけられるのは私なんです……無茶な事は……」
 今更になっての市長の弱気な発言に、が口を開きかけたがマーベリックが「私が責任を取ります、ご安心ください市長」とはっきりとした口調で割り切ったように言う。はマーベリックを興味なさそうに一瞥すると、くるりと踵を返した。



 「ありがとうございます、恩にきります」
 では、とハンバーガーとチーズバーガーの包装紙を三本目のからのシェイクの容器に入れる。四本目の中身のあるシェイクを持ちながら、彼女は会議所を後にした。彼女が過ぎ去ったあとには、上層部のため息と、シェイクの空き容器とそれに入りきらなかった包装紙ががぽつんとあるだけだった。