『ままままま待って! くっついたのくっついてないのどっちなの!』
 「くっついてないわよ……、そんな簡単にくっつくならこんなに苦労しないって」



 カリーナが電話越しにの同僚と話している。ため息をつくカリーナは、普段ファッションに何も気を使おうとしないの洋服を選びながら、これなんかいいかもとかわいらしいレースの襟のついたブラウスを広げた。現在はショッピングモール。とネイサンとホアンと共に休日を合わせてショッピングをしにきたのだ。とりあえず行動しない二人の後押し作業といったものに近い。けれども今度はちゃんとからもう一度、あらためてデートに誘わせるのだ。



 『デート上手く行ったみたいだけど進展は? え? ハグもキスもないの?』
 「それがね……、ああ、あの二人、多分両思いなのにどっちも行動しないのよ……二人とも奥手なんだから!」
 『ああん、もうそれじゃあ駄目じゃない!』
 「でしょ? じゃあもう切るね、バーイ」
 『幸運を祈ってるわ』



 ぷちり、と通話終了ボタンを押す。そして吐き出される盛大なため息。目の前にはされるがままにされているの姿があった。あっちの服を試着し、こっちの服を試着し、気づけば彼女はとんでもない量の買い物に付き合わされているらしかった。当日はネイサンがコーディネートしてくれるらしいし、安心と言ったら安心なんだけれど。とカリーナは思う。



 (うまくいってくれたらいいんだけど)
 そんな不安を胸にカリーナが先ほどのブラウスをネイサンの所に持っていくと、ネイサンが目をきらきらと輝かせる。



 「あら、かわいいじゃない」
 「ひいい、そんな可愛い服に合いませんよ! ふりふりしてるじゃないですかもっと地味なのでいいです……」
 「なーに馬鹿みたいなこと言ってるの! もう、いつも白衣ばっかりで感覚がダメになってるわよ! もっと女の子らしくしても大丈夫な綺麗な顔なんだからもっと全開に生かしなさい! はい、これとこれね、もうこのワンピースとか絶対に合うんだから大丈夫よォ、心配しないで!」
 「は、はいいいい!」



 ふりふりのブラウスもかわいらしい女の子の着るワンピースも、ぜんぶ店員さんがレジへと運んでいく。金持ちの洋服の買い方が尋常じゃないことに気付いて、はごくりと固唾を飲んだ。これは全部ネイサン持ちの買い物なのだ。も確かに裕福な層の生まれだけれども、もともとパソコンや機械類にお金を投資することが多かったので、こんなにかわいい洋服をたくさんまとめ買いするなんてことは無かったし、母がモデルをしているせいかちょくちょく服が送られてくるので全く無頓着な面もあったのだ。だからこうして自分に似合う服を必死に選んでもらうのは久しぶりで、もしかすれば最近服屋に足を運ぶなんてこともなかったかもしれない。



 「じゃあここの店はこのくらいかしらね」
 「はいい!」



 が着なかったり着れなかったりする母の服(といっても一度二度着た程度の服だ)を譲るといった条件でネイサンはほいほいと人気の高い服屋を回っていく。明らかに譲った分のものよりも高くつくのではないかと思うような買い物の量に、ネイサンはあの服の価値が分からないの、とぷりぷりと怒った。どうやら最新モデルの服らしく、取り寄せてもゆうに三か月はかかる代物もあるらしい。露出も何もかも多すぎてには着れずにタンスの中で眠っていたドレスも、ネイサンやカリーナが着れば見事に着こなして輝きを放ちだしてしまうのだからすごい。家に招いた女性陣でファッションショーを一通り繰り広げた後、いらなかったドレスやなんやらをネイサンやカリーナに、小さくなった服をホアンに譲れば、ずいぶん衣装ダンスもすっきりとした。



 「じゃあ次行くわよ!」
 「え、まだ行くんですか!」
 「当たり前でしょ、あの服買おうとしたらこのくらいじゃきっと足りないわよ」



 ネイサンの言葉に、母親はどんな高い服をいつも来ているのだろうかと口元が引きつってしまうだった。










(20110818|×|わたしのためののばら)