映画館。両者がちがちになりながら映画を見ているイワンとがいた。これは傍から見ればいわゆるデートなのだけれどもこれは本人たちが当人同士で約束したものではなく、他人からのお節介という名の行為によってなんやかんやしているあいだに結論としてこんな事になったのである。そもそも両者共に相手を誘えるような勇気も度胸も兼ね備えていないので、少々この状況は他人の介入なしには不可能に近い状態なのである。要するに彼らは嵌められたようだった。






 『愛していると言ってくれ……僕は君のことしか……』
 『ああでも、貴方にはクリスティーナという婚約者が……ああ……ジャック……』
 『ああ……愛しの君よ……ヘンリエッタ』



 スクリーンから流れてくるセリフは恋愛映画のよくあるラブシーンで、そこからいきなり主演の二人が熱烈なキスシーンをはじめるものだから、イワンももスクリーンから少し視線を外してふらふらと泳がせた。雰囲気のあるベルサイユ宮殿のような建物の並ぶ時代背景で、シェイクスピアよろしく男女がいちゃいちゃとじゃれついている恋愛映画を恋人でもない男女が見に来るとは何事なのだろうか。はため息をついた。









 時は少しさかのぼり、午前10時。夏のからりとした暑さ。日差しはまだまだ弱い方だが、これからどんどん強くなるだろう時間帯には映画館の前にスマートフォンを握りしめながら呆然と立っていた。の同期であるふわふわとした金髪の彼女が、誘った映画を待ち合わせ時間十分前になってドタキャンしたのである『ごめん! 今日行けなくなっちゃったの』は当然電話口で焦る。「え、いけない? どういうこと?」『あ、埋め合わせはするから、じゃあねチャオ映画は見てきたらいいよ!』が聞いた中で一番意味不明な断り文句。言い返そうにもの持っているスマートフォンからはツーツーというむなしい音しか響いてこなかった。はぁ、というのため息が、の胸に大きく響く。
 がまあいいか、と諦めてメカアクション映画を上映スケジュールから探すけれども、どうやら人気が高いらしく既に満席らしい。新しいメカが見たかったとしょんぼりしながら他に何か面白そうな映画は、と探しているところで背後から「ちょ、ちょっと待ってください! え、チケットどうするんですか!」なんて情けない声が聞こえてくる。「ちょっと……! あっ……切れてる……!」どうやらその声の主も誰かにドタキャンされてチケットが余ったらしい。かわいそうに、とが同情していると横から「あれ……もしかしてさん?」なんて声をかけられる。



 「えっ……おりが……いやいや、イワン君」



 が驚いて振り返れば、そこにいたかわいそうな人物は折紙サイクロンことイワンであった。手には封筒と携帯を持っている。



 「さんも、ええと、映画を見に?」
 「え…ええと、まあ、うん、……そう! そうだよ!」
 「僕もそのはずだったのに、誘ってきた友人が急に急病にかかったとかで」
 「ああ、私も同期が急によくわからない電話かけてきてドタキャンで……チケットもないしどれ見ようかと」
 「あ、あの友人に貰ったチケットが余ってしまっているので…もしよかったら一枚いります?」
 「ほんと?」



 が目を輝かせた。チケットの中身をよく見ていなかったイワンはまんまと策略に嵌っていく。そんなこんなで現在の厳しい状況に至る。しかしどちらもまんざらでもない表情をしているあたり、首謀者の思惑通りに進んでいるのかもしれない。










(20110818|×|わたしのためののばら)そんなこんなでヒーローズも同僚も噛んでる。