「お疲れお嬢」「お疲れ!」「また今度飲みに行こうよ」そんな声がちらちらと舞う中でうっかり頷いてしまったのが運の尽きだった。そんなこんなではうっかりメカニックの同期と飲みに来ている。といっても同期は目の前に座る彼女、金髪にふわふわとした髪でくりくりとした茶色の瞳をしている女の子の二人しかいないのだから、ただ女二人で女子会よろしく飲みに来ただけである。



 「進展はあったの?」
 「え?」
 「だーかーらー! イワン君の!」
 「え?」
 「進展!」



 彼女がひたすらに進展進展とまくし立てている進展の意味が分からず、は首をかしげる。がふっと気づいてもしかしてなんて考える。が思い出したようにはっとしたような顔をすれば、同期は机から身を乗り出して「え! あるの?」なんてびっくりしすぎたのか少し上ずったような声を出す。



 「ああ、あったあった! 今度新しい企業と契約してロゴが増え……」
 「ちっがーう!」



 酔いが回った同期はビールをジョッキからごくりごくりと飲んで、机にぼんっとおきながら机に並ぶ焼き鳥の串をとってもぐもぐと食べる。も軟骨に手を伸ばす。こりこりとした食感がまこと美味である。は口の中で軟骨をこりこりとしながら首をかしげた。



 「え?」
 「この超鈍感ウスノロ馬鹿間抜け! どうしてこんなに疎いの!」
 「いや全然疎くないし! 最新の金属とか使って部品も調整してるし……それに……」
 「ちがーう! もう、全然ダメ、絶対ダメ、こんなんじゃダメ、私の5ドルは戻ってこなくなるでしょ、絶対に勝ちなさい!」



 同期があまりにも熱心で仕事でもめったに見ないような真剣な目でを見る。その眼は今から獲物を駆る鷹にも勝る勢いで鋭く、これではライオンですら怖気づいて逃げ出すのでは、とは思った。はたして5ドルとはいったい何のことだかさっぱりわからない表情で頭にクエスチョンマークを浮かべたは、同期の迫力に気おされて頷くしかなかった。



 「え、おお……うん」










(20110818|×|わたしのためののばら)ヒロインは飲める派です。