きっかけは些細なものでイワンとは年齢も近いせいもあってか少しずつ話をするようになっていた。廊下でとおりすがれば挨拶もする、今となっては時にランチを一緒に食べる仲だった。ヒーローと、いちメカニックがここまで関わることは珍しい。というのも業種柄、常に開発研究ばかり行っているせいか人と関わる事が根本的に少ないからである。メカニックなので多少の関わりは無くもないのだが、新しい機能が増えたりメンテナンスを行ったりする度に報告をする程度だった。ましては新人であったし、優秀とはいえ業務内にまだ研修も兼ねている面もある。そんな彼らの様子をうかがう者が出てくるのも、当人同士に自覚のない恋愛を楽しもうとする一部の世話焼きな社員のささやかな風習のようなもので、そんな社員の手により当人を除く関係社員は彼らに悟られないように噂話やホラ話を作りきゃあきゃあと子供のようにはしゃぎたてていた。

 イワンは周りに言わせればとてもハンサムだけれど、少し強引さに欠けているというのが周囲のこっそりとした意見だったしで人がいれば物陰に隠れるようなタイプである。そんな二人をまたか、といったような視線で見るのが同部署の社員。毎日少ししか進展しない二人をくっつけようとする輩、冷やかす輩、三か月以内にくっついたら5ドル賭けるという輩まで出てきていろいろと社内で楽しんでいるらしいが一向に恋人になる気配が無く、その結果として、さまざまな反応があった後に結局はまたか、と言う視線に変わる。



 「ご両親もプログラマを?」



 イワンの問いかけに、こくんとは頷いた。とうさんがね、とぽつりぽつりと口を開いた。そしてみそ汁を一口飲む。
 「今でも私の目標なの」
 「そっか」



 社員食堂は広く居心地のいい和風の空間としてデザインされている。畳の敷いてある個室が連なっている形式の少しおしゃれな雰囲気で、日本のうなぎ屋などにありそうなデザインが取り入れられている。折り紙サイクロンを純和風で売っているせいだろうか、メニューにも少々日本料理が取り入れられており、基本的に新入社員はそのデザインに驚きメニューに驚くのが毎年恒例の行事のようになっていた。もその一人だったことは言うまでもないだろう。
 


 「おいしい」
 「拙者もみそ汁好きでござるよ」
 「ワビサビ?」
 「日本文化は興味深くて、」
 うんぬんかんぬん、と日本文化について熱弁をふるい続けるイワンの話を聞きながらは父親の事を少し考える。



 祈るだけむだなのかもしれないと、そう思うようにはならなかった彼女はとても幸せな環境で育った。いや、少し語弊があるかもしれない。自身プログラマとしては恵まれて幸せな環境で育った。父も母も裕福な層の出で、小さなころはパーティにも呼ばれるくらいには恵まれていた。どこに語弊があるのかと言えば、おそらく両親がほとんど家にはいなかったという点くらいだろう。父はプログラムと始終にらめっこしていたせいで夜中しか返ってこなかったし、が学校へ行くころにはもういなかった。母は朝ごはんを作ればすぐに社交界のなんやかんやで引っ張りだこのモデルだったようで、ほとんど家にはいなかった。家にいたのはお手伝いの格式の高いメイドが一人。にとっては彼女が母親のようなものだった。
 だから、父親というものを、あまりしらない。母親というものも、あまりよくわからない。






 「……というわけなんだよ!」
 「素敵ですよね」



 そして話が一区切りついたところで、はにこりとイワンに微笑んだ。



 もし時が戻るなら、
 両親との時間を過ごせるのかな










(20110905|×|わたしのためののばら)ヘリペリ社内捏造激しい。