彼女がゆるやかに口を開いて「ソウルくん、私もしかしたらあなたの事好きかもしれないんだけど」と言う。教室には俺としかいない。の事を正直どう思っているかいないかそれ以前にこんな突拍子もない事を突然(それも本人に対して直接)言われたら正直驚いて言葉も出ねぇ。しかも告白にしては言葉が曖昧すぎる。『もしかしたら』とか『かもしれない』…とか。そういう色恋沙汰の話は普通マカとかそういう奴に相談するもんだと思ってたがコイツは確か昔からこういう奴だったという事を思い出す。周りの常識に縛られていないというか、周りからワンテンポずれていて、他人の斜め45度を行くような性格をしているというのは幼いころの経験上よく分かっているはずだった。だが未だに俺はコイツが掴めねぇ奴だと思っている。それは絶対的な事実だ。


 「でももしかしたら違うかもしれない。…どう思う?」



 挙句の果てに俺に直接疑問形で聞いてくる。やっぱりそういう奴だ。可愛くないと言えばそれは嘘になる。そりゃだって容姿は誰に聞いても頭一つ抜けて可愛いと称される程の部類に入るし、適当な雑誌に投稿でもしたら直ぐにでもモデル採用してもらえるんじゃねーかと噂され、どうやら隠れてファンクラブまでもが存在する程だ。一言でCOOLに言えば『超可愛い』。多分告白されている数は正直な話、俺より多い。しかも同性からも告白されていると聞くものだから俺は耳を疑わざるを得ない。これ以上は長くなるから割愛する。と、まあそんな老若男女性別を超えて愛されているを罵ろうものなら、後が一番怖い。本人が気にしてようが気にしてなかろうが(大抵の事は本人が全く気にしていないが)、ファンの地獄耳にかかれば恐ろしいものだ。ボコボコに殴られるか袋叩きにあう事は目に見えている。女ってのはこういうとき恐ろしーんだよな。おーおー無自覚って怖いわ、まあ馬鹿にしてるわけじゃねぇけど。と思いながら苦笑する。



 そういう所も全部含め、コイツ自身がそれを自分の鼻にかけて威張り腐った様子も、媚びたような視線もへったくれも全くと言っていいほどに無い。見た目より大らかで、話しかけられれば恐らく誰とでも気兼ねなく話す。単にコイツは天然なのか気づいてないだけなのか、それをそれをも上回る策士なのか分かんねぇけど比較的そういう所は好感が持てる。だがいくらそう思ったところで、コイツが謎の多い奴で掴みどころのねぇ奴だってことに変わりはない。
 だが、現に告白にすら色気が無いってのはちょっと問題なんじゃねーのか?






 「ンな事聞かれてもよ、」俺はしばし言葉を選ぶ。COOLな男は言葉を慎重に選んで使うもんだ。「俺はお前じゃねーからわかんねーっつうか」
 「それもそうか、じゃあ誰に聞いたら分かるだろうか…」そのまま彼女がうーんと悩み始める。自分で考えるという選択肢は存在しないらしい。そしてまたしても彼女は突拍子もないことを呟き始めた。「…やっぱりここはシュタイン博士かデスサイズさんか死神様に聞くのが妥当…?」



 「はぁー、ったく自分の魂にでも聞いてみろよ」
 「…そうか、その手があるのか!」 ぽん、とひらめいた様子で両手を打つ彼女だが、しばらくしてまた表情をくもらせて首をかしげる。「でもどうやって?」
 「あーもー、そういうのは自分で考えンだよっ! …その脳ミソ、確実に空っぽじゃねぇはずだぜ」
 「自問自答してもなかなか答えにならないよ?」
 例えば、と彼女が話し始める。「仮に好きだと考えても、私、人を好きになったことなんてないから基準値が分からないの。だってそうでしょ? 例え目線で常に追っていたとしたところで、もしかしたらただその人が動いていたからぼんやりと反射神経が働いて目で追っていただけかもしれない。その人の事を考えていると胸が熱くなるのも、ただ怒りに震えているだけかもしれない。それに鼓動が早くなったところで、ただ恐怖におびえているだけかもしれない。…こうしてつきつめてしまえばいともたやすく恋は錯覚という結論に思い至ってしまうから」
 彼女は息を吸い込んで俺の言葉をさえぎり、話を進める。
 「友達として見られないという感覚がわからない、尊敬と愛情の違いがわからない。異性として意識して恋だと認識するまで人間は何を考えてどう行動しているのか行動の原理は何だろう。大事とか、守りたい想いっていうのは家族に対してだったり友達、ううん親友に関してだってあるからそれが恋慕につながるのかすら私には分からないし。ただその守りたい対象が異性というだけで恋愛感情にまで意識を発展させるのは、恐らく男の子が女の子を守りたいというものだろうし逆のケースは考えても珍しいくらいだろうと思うの。悪く言うならある種身勝手な自己満足に過ぎない」
 わからないなぁ、と彼女はため息をついた。俺にはコイツの言っている意味が難しすぎて理解できねぇ。だが、ただ一つ。





 「恋ってそんな無理するモンでもねーだろ?」
 「え?」
 「確かにわかんねぇ事も多いけどよ、まずは嫌いじゃねーってところから。そっから入ってくっていう奴もいれば、一目惚れなんていう奴もいる。中には友達以降の事がしたいとかそういうだけの奴もいるけどよ、俺は…」一瞬言葉につまる。「俺は、お前の事、嫌いじゃねーからさ」



 「…『ときめく』って感覚、ちょっと分かった気がする」
 徐々に彼女が目を見開いていく。その眼をぱちぱちと瞬かせてぼそりと呟いた後、「じゃ、…じゃあね!」と乱暴に彼女は立ち上がると鞄をひっつかんで数歩大股で歩く。そのまま進んでいくかと思いきや、一瞬立ち止まった。振り返ると顔が紅い。








 「…でもやっぱり恋愛沙汰は分からないから友達で保留」



 不覚にも彼女があまりにも可愛い表情をするものだから、思わずときめいちまったなんてCOOLじゃねぇな。自分自身に苦笑しながら、俺も荷物をまとめた。















花園へのいざない





(20110313)なんで空き教室に二人で残ってたとかそういう理由はお姉さんは知りませんが何か。