ふと気づけば常に菓子を頬張っているというのがだった。本日もそれは変わらず、マカの隣で呑気に袋に入っているクッキーや焼き菓子の類などを頬張っている。甘いものが大好きと自称している彼女の事、常に日常から糖分の補給と言いながら通学中にも関わらず菓子をぽりぽりと食べながら歩く。誕生日でもバレンタインですらない平日にも何かしらの食べ物を死武専生から貰っており、それは彼女の胃袋へと大半が消えていく。そのうちのいくつかはソウル自身やマカ、ブラックスター、椿、キッド、トンプソン姉妹等のおなじみのメンバーの胃袋へと入ることになるのだが、これは彼女の善意によるもので彼女が貰ったもののなかでも比較的市販されているようなものを貰うことしかない。にしても、人間としてそんなに糖分を取る必要性は全く感じられはしないが今日学校へ来た時にちらりと見た時も『かりんとう』と呼ばれる茶色いものを食べていた。がぽりぽりとつまんで食べる様子は見ていて何かの小動物のようにも見え、見る人が見れば連れ去りたくなるような可愛さ……らしい。 (確かに可愛いとは思うが、まあ俺はそこまで末期じゃねぇな) と、ソウルはぽりぽりとクッキーを食べるを横目に見ながら考える。 それが、物欲しそうに眺めていたように彼女の目に映ったらしく、「ソウル君も食べる?」とクッキーがマカ越しに差しだされる。それを受け取って「サンキュー」と言えば彼女は満足げににこりと笑った。彼女につられて笑顔がこぼれると、マカの視線が痛い。 「うわ、変態! 急ににやけないでよ」 「ンだよ、お前だってニヤニヤしながらの事見てたくせによく言うぜ」 「う…そんな事無いっ!」 そういえば『かりんとう』はどうやら日本か何かの菓子らしく、椿からのおみやげで貰ったと本人が言っていた。どうやら椿の里帰りのタイミングで彼女においしい菓子を買ってきてほしい、と頼んだらしい。甘いモノ好きはこんな所でも健在のようだ。 (女ってのはつくづく甘いもんが好きらしい) さて、彼女がこんなに食べているのなら体重はそれなりにふくよかか、と思いきや彼女の体のラインは見事なまでに『ふくよかな体系』とはかけ離れている。海兵の着ているセーラー服に似た彼女の服から露出しているウエストはモデルのような綺麗な曲線状にくびれており、出るところは出るという非常に女性らしいS字型の魅惑的なラインをかたどっている。もう少ししたらグラビアの雑誌にでも載るんじゃないかと思わせるようないい体型である。その点では人型のブレアと将来的に張り合えるんじゃないかと思わせるようなものを周囲に感じさせていた。 「まあまあ、甘いもの食べれば落ち着くから大丈夫だって」 で、そんなが今日、ホワイトデーに何かを貰わないはずがなかった。椿に貰ったというかりんとうをはじめ、そういえば朝会った時よりの荷物が多いと感じていた違和感の正体はどうやらあの紙袋3つ分、…いや5つ分の菓子の山だった。思わず(うげっ)と声が漏れる。 「うふ、今日はみんないっぱいくれるから何だか幸せ」 同時にゴミ袋も持参しているらしい。食べ終わった包装紙やらなんやらをその中にぽいっと捨てていく。机の下に設置されたその袋は、すでに一つそのゴミでいっぱいになった袋があった。いまがごみを捨てているのは二つ目のごみ袋になる。朝から二限目までにそんなに食べているというのも驚きだが、朝から二限目までにそれ以上の量のものをもらっているというのが驚愕だった。 (いくつ貰ってんだコイツ。俺だってそんなに貰ったことねぇのに…ホントCOOLな奴だぜ) 「そもそもホワイトデーってバレンタインに貰った奴にお返しする日なんだろ」 なんでがそんなに貰ってんだよ。ソウルが思ったことを口にすれば、はうーんと悩み始める。「ああ、そういうの考えたこともなかったよ…。みんなお菓子くれていい人☆みたいな…だめかな、こういうの。でもバレンタインのお返しはちゃんとしてきたよ?」 「…そういう問題かよ!」 「え? 違うの?」が首をかしげた。 それと同時にマドレーヌを頬張っているマカが、の方にぐいっと詰め寄る。 「っていうか、ホワイトデーに返したの? …誰に?」 「え?」目を瞬かせてきょとんとする。「もらった人に」 「そこはもっと具体的に言ってよ! 名前とか! ホワイトデーにお返しするってことはその人の愛の告白を受けて立つってことでしょ?」 「え?」が明らかに目を泳がせる。「そうなの…? どうしよう…もらった人全員に返してきちゃったんだけど、全員分受けなきゃだめかな…」 「え」 「困るなあ、女の子もいるし…これって何股なんだろう…20…いや30…違ったかな今年結構貰って…その分作ったから…」 うーん、と頭をひねり始める。左手で貰った数と上げた数を数え、その反対側の手はやはりそういいながらも動いていてもぐもぐとマドレーヌをひっきりなしに食べている。空になった箱をゴミ袋へと投げて、さらに新しいビニールの袋をびりびり開いて中に入っている1ダースのシュークリームに手をつけ始める。中から飛び出して指に着いたクリームを舐めるのが艶めかしくてエロい…じゃなくて。 「ん? マカちゃんどうしたの急に何も喋らなくなって…」彼女は相も変わらず2個目のシューに手を伸ばす。 「……そ…」 「…そ?」 「…そ、…それってもしかして…貰いすぎてない?」 「あげすぎちゃったかなぁ、やっぱり…」 うーん、と見当はずれな事を悩む彼女は、眉をハの字に歪ませながらもぐもぐとシューを頬張る。指についたクリームを舐める。彼女自身無自覚であろう、その行動にソウルは不覚にもドキリとして、いやいや、と首を振って煩悩を振り払った。しかしながらいかがわしいように見えてしまうのは自分の思考がおかしいのだろうか、ソウルは少し彼女から視線を外す。視界の端でやはりまだ彼女がシューに手を伸ばすのが見えた。 「ま。いっか」が言う。「ほとんど女の子だし」 「…そうなの?」 「友チョコで許される範囲だよね、好きも友達の範囲だよね」 うんうん、と頷く。「私は女の子だから許される範囲だよね、例え本気っぽくて惚れ薬入っててあやうく貰った人と違う人に惚れそうになった時もあったけど…きっと私が彼氏作らないから心配してくれただけだよね…! 私はそう信じてる」 「ちょ、ちょっと今すごいこと聞こえたけど大丈夫なの!」 「ん? 日常茶飯事だよ?」 勢いよく机から立ち上がって彼女の肩をがっしりと掴んだマカに、当のは平然とした様子で首をかしげる。 「でもね、だからみんなには市販のだけあげるようにしてるんだよね。だって、みんなに迷惑ってかけられないでしょ?」 そういえば以前、「たまに妙な薬の入ったのがあるから注意して食べているんだよ」と彼女は漏らしていたことがある。それはこの事だったのかもしれない、とソウルは一人思った。にしてもそんな薬が入っている菓子を押し付けていくなど、相当本気すぎる奴なんだろうと思考を巡らせる。しかしそう言う事があっても食べるのをやめないもである。 「でも何回か市販のにも入ってたから、気を付けてるんだよね」 もはやそれには絶句せざるを得なかった。そしてその沈黙を破るように空気の読めない彼女のパートナーが彼女の隣にどすんと腰を下ろした。 「ふふふ…それは僕のが可愛すぎるからだろうそれはよおく分かるだけどしかし君たちごとき愚民にを譲る気など毛頭ないよだから安心しすぎて過労死するほどに安心していいんだだけどしかし残念ながら可愛すぎる罪というのは重い…ああなんと罪なのだろうね…なぜ美しさは時に残酷な結末をもたらしてしまうのか凡人には理解できない領域だろう君たちのような美しさの片りんを感じさせないような凡人には分からないだろうね…」 「げっ…、イヴァン」 「イヴァンもその性格何とかすればいいのに」 その彼ですら、今日はなにやらたくさんの紙袋を下げている。聞かなくてもきっとが貰ったものと同じ類のものだと分かる。 「君に言われるほど落ちぶれていないつもりなんだ僕は…悲観だ…悲観を貫けばいいのだろうか」 平たく一言で言ってしまえばナルシストである彼は美的センスを追及することに関して、限りない努力をしているらしく常にファッションショーで着られているような常人には理解できないような服を着ていることが多い。確かに顔は無駄にいいものだから、何を着てもモデルのようにサマになる。…あの性格さえなければ、と誰もが思うだろう。なぜなら彼はデスサイズと同じくらいに無類の美しいモノ…もとい女好きなのである。それもモデル張りに美人とかわいい子限定。しかしはどうやら恋愛対象外らしく、鑑賞物として愛でている節が見える。「僕ごときに彼女は汚せないよ」とかなんとからしいが詳しい理由はよくわからない。むしろアイツの行動自体が理解できない。どうやら今日はホワイトデーを意識したらしく白と茶色を基調としてロンドンにいる少年のような恰好をしている。ゆるやかなブロンド碧眼が憎らしい優男であるが、女子の人気は高い。そこそこ成績のいい職人だからだろう、武器として立候補する女子は後を絶たず、その度に「程心身ともに美しい武器は無いから無理だね」と言って断っているらしい。…その点が顔のいいだけのヒーローとは違うところだろうか。 彼はガサガサと自分の鞄を漁りながら、目的のものを引っ張り出した。 「そういえば、僕からのホワイトデーだよ」 「あれ? …うん、ありがとー!」 そして今日も三限目の始業チャイムが鳴る。 |