そして退院した私に渡された紙には、次に行く先の住所が書かれていた。 死神様の待つ部屋、通称デスルームに通された私は死神様にもらった地図(かなり適当に書かれている)を見ながら首をかしげる。『ツギハギ研究所・ココ!』と簡単な四角と線と矢印で書かれているそれは、死神様の性格を如実に表していた。この場所説明で私は分かるけれど、きっと普通の人では分からないと思う。 「そりゃねー、ボクとしてもちゃんの事を十分に理解してくれるパートナーに預けたいっていうのも山々だしちゃんがまた売られちゃったり狙われたりするのはいただけないからねぇ。せめてもの防衛策ってトーコーロー? ちょっと変な人だけど、死武専一優秀な三ツ星職人だからすぐに君をデスサイズにしてくれると思うよ?」 「ありがとうございます」 ぺこり、と一礼する。 しかし死神様の説明からは彼の人物像があまり伝わってこない。彼はどういう人なのだろう。すごい人、というのは何となく分かる。でも他の事はあまりわからない。とりあえずすごい人なのだろう。イメージはつかないけれどできるだけいざこざは起したくないと思うし、魂の波長が合わないなんて人なら多分真っ先に狂気に呑みこまれてしまいそうになる。だから少し、怖い。 「そうなったらボクの所で働けるようになるし、ちゃんと君を守ってあげることができる。普段から気を付けているにはいるんだけど、さすがに君の事を二十四時間監視しているってのもプライバシーの侵害だしねー」 でも、死神様が推薦しているのならきっと間違いはないのだろう。おそらくトップレベルの職人を私に充ててくれているはずだから、感謝しなければいけない。それも私が狙われている身だからなのだ。これは最近知ったのだけれど、私の一族は売値が相当なものらしく捕まえられては売られるサイクルを繰り返している人も、一族の中にはいるという。一族と言っても、私は全く会ったことは無いし向こうだって恐らく面識はない。それが普通だ。それぞれが各地に点在しており、人種も肌の色も同じ。でも一つだけ私たちの一族は右腕に一族としての刻印がある。これは生まれて三年後に浮かび上がってくるものらしい。だから父は私を売りに出そうとしたのだろうか。それも今になっては分からない。そして私たちの一族の特徴の一つとして年齢が老いても体は一番美しいままの状態で生きられる、要するにエルフに近い体質を持っている事が分かっているらしい。寿命は普通の人よりも少々長いくらい。それも買い手と名のつく悪徳業者やバイヤー達、金持ちの道楽者にとってはとても魅力的に映るというのだ。だから、高値で売れる。子供は珍しいのでよけいに値がつり上がる。こんな魔のサイクルを繰り返している。その他の事は謎に包まれている、よくわからない一族だ。 私は死神様の言葉に相槌を打つ。 「他の子の事も気になるし」死神様は、どこからか手を出してぽんっと私の肩にその手を置いた。「と言う訳で! シュタイン君と仲良くパートナーとして頑張っちゃってくださーい!」 「はい、わかりました」私はぺこりと一礼する。「それでは失礼します」 そして私はデスルームを後にする。そんな経由があった。あったのだが。 私は研究所を見て少しばかり、いや随分と入るのを躊躇っていた。死神様から貰った紙の地図を握りしめればくしゃりと音がする。目の前には気味の悪いつぎはぎだらけの建物が建っていて、こんな形をしているから『ツギハギ研究所』と言うのか、となんとなく感じ取る。しかし、こんな気味の悪い所に住める人が通常の人である可能性は薄かった。私はぼんやりと建物の前にたたずんで、たたずんで、たたずんで、…かれこれ一時間になろうとしている。悶々と悩むのももう飽きてきて、もういっそのことどうなってもいいから入ってしまえば楽なのではないかと思いかけたその時だった。中からガタガタと音がする。 がらがら、と言う音が近づいてきて、何かくると思った次の瞬間。 彼は、回転椅子に跨ったまま滑ってきたと思えば椅子のタイヤがドアの梁にひっかかって盛大に椅子ごと転倒した。私は思わず短い悲鳴を上げる。何だこの人、というのが第一印象。頭に螺子が刺さっているのも、顔に縫合痕があるのも白衣を着ているくせに白衣もところどころが縫合されていて私は少しだけ背筋に嫌なものがはしった。ぞわり、と身の毛がよだつ。 「はー、君が三叉槍の御嬢さん。温室育ちの御令嬢な上にトライデントの一族、へぇ、ほぉ、初めて見ましたよ。さすがに美人の類に属しますよねぇ。手入れが行き届いているというか見事によくしつけられているというか世俗的な事を知らない無垢な魂が見える」 ふふふ、と不気味に笑いながら彼はいつの間にか起き上がって、椅子に跨る。 「そんなに怯えないで下さいよ。心外だなァ、せっかくだから解体でもしながらゆっくり話します?」 解体をしながらゆっくりはなせる人間性がよくわからなかった。死神様の説明はやっぱり一つ足りない。変な人どころではなく変態だった。一瞬だけ彼から視線を逸らして死神様は何を考えているのだろうかと思った。ため息をつく。それから彼のいたドアの方を見ればそこには既にくるくると一人でさみしく回転する椅子しかなく、反応の遅れた私はシュタインさんに一瞬のうちに背後を取られた。彼がいつの間にか私の両手を上にあげて拘束し、耳元でささやく。 「それとも、君からバラしてあげようか」 ぞわりぞわり。背筋がぞくぞくとする。こんな事は初めてだった。肌をつうっと伝う手もヒトに触り慣れている様子で私はやはりぞわりとする。ひんやりとしたシュタインさんの手が腹をつたい、どこからともなくマジックを取り出す。「つやつやなお肌だねぇ」なんて言う声がいちいちいかがわしい。これは恐怖かもしれない、何かは分からないけれども得体の知らないものに怯えているのかもしれない。私は恐ろしいと思っているのだろうか。でも、第一印象はある程度よくないのは確かな事実と言ってもよかった。でも私は、この人の実力が並大抵のものではない、という事は何となく空気で分かった。私の背後に回った気配もなければ、一瞬気を抜いた私の隙を見極めて確実についてくる俊敏さもある。恐ろしい人の下につくことになったものだ、と私はつくづく感じた。私がとても不審そうな目をしていたのだろう、彼はメガネを押し上げて不気味に笑った。 「なーんて、まだ冗談ですよ」 にしては目が本気だったというのは言わないでおこう。彼は、私の腕を離すとやはり不気味に笑った。私は果たして彼とパートナーとしてうまくやっていけるかどうか全く分からなかった。つかめない男だと思う、そのくせこちらの事は把握している。こちらとしては説明を省くことができるので都合はいいのだけれど、どうにも気味が悪かった。それ以外何もなかったけれども、死神様が用意してくださった居場所であるから贅沢は言えない立場だ。少しの君の悪さは我慢しなくてはならない。何かされたとしても、恐らく殺されはしないだろう。私はため息をついて、「以後、よろしくお願いします」と妥協した。 そんなこんなで、ものすごく不安なシュタインさんとの共同生活が始まる。 五月のなき声は甘かったか
(20100322)さてイヴァン君がキタコレと思った皆さんの期待を裏切るシュタイン先生落ちでもこれ断固としてソウル夢ですよ(え)シュタイン先生はデフォルトで変態なのであんなこともこんなこともオッケーだと思ってます要するにちょうがつくほどの身勝手だけどイケメン変態は何しても許されるんだよ! 私はつくづくバンダナと変態と俺様で頼りになる奴が好きだと思う今日この頃。私に対して異性が変態だとマジドン引きだけど異性×ヒロインなら許されるおおおたぎる。▲ |