華のように美しく、君と同じ白銀の髪の色そして雪のように白い肌に、血のように紅い瞳。それは童話に出てくるようなもののようにも見え、さらに僕の美意識以上の何か得体のしれないものを持ち合わせていた。彼女に最初に会ったとき、僕は恐怖を感じることしかできなかったのかもしれない。ラプンツェル、という童話を知っているか。と聞けば彼は首を振った。僕は分かりやすく彼に教える。



 「塔の上に隔離されて育てられている可哀そうな少女の童話だよ」



 確かグリム兄弟の童話だったろうか。興味があれば読んでみるといい。その童話の通りの人生を送ってきた、それがだと考えてもらえばだいたいはあっていると思う。あの魔女は彼女の母親に呪いをかけ、その生まれてくる娘を子が孕めないような体にした。その呪いの代償として彼女の髪は白く肌の色も白い。そして右腕には呪いの呪印、もとい魔法陣が一生消えない傷として刺青のように残っている。唯一その濃い色のついた瞳は血液の色が透けて見えるために赤いのだよ。と僕は言う。呪われていないが、まあだいたいは君と同じだ。似て非なるものだけれどね。



 彼女はあまりにも残酷な運命を背負いすぎている。
  彼女は君の想像しているよりも、深い深い闇の中にいる。
   彼女は僕では助ける事はできない僕の出る幕は終わりだ。
    彼女は恐らく、君自身が助けられる場所にいるはずだろう。
   彼女は狂気に飲まれそうになっているんだと僕は思う。
  常に狂気と戦っている様子が僕にだけ伝わるんだ。
 それは職人と武器の感覚にも似て非なるものだと。



 ……僕はそう思う。



 彼女は僕にとっての世界の救世主で僕は彼女にとっての命の恩人だ。お互いに利用価値があってこそのパートナーなのかもしれないが、僕は彼女に感謝している。恐らく彼女もパートナーとして僕には感謝していると思う。自信過剰に見えるかもしれないが、これは波長を合わせるたびにじわじわ伝わってくるからあながち間違ってはいないだろうね。というのもソウル君には伝えておいてもいいかと思うんだ。これは僕の直観だが、君はの事を悪く思っているわけじゃないだろうもちろん今はまだ恋愛感情としてではないかもしれないけれど注意した方がいい彼女に魅入られたら最後だ。同性ですら彼女が欲しくてたまらなくなる、異性なら一日たりとも離れて過ごしたくなくなる、常に愛していたい愛されていたいと思わせる。一般的に相思相愛なんて戯言が現代社会であるというのはめったにないかもしれない。しかし彼女はそれをいとも簡単にしてしまう…漫画でありそうなことがいとも簡単に起こる、そういう人種だ。愛される星のもとに生まれている。そして恐らく彼女が好きになった相手が落ちないわけはない。と僕は考えている。それは僕の経験からも言えることだけど。…それが本人の意図すべき所とは相反するものだとしても、彼女自身が内側から放出しているエネルギーというものは計り知れないものだからね。彼女が無意識な分だけ余計にたちが悪いかもしれない。



 だから、彼女は老若男女に愛されている。僕も似たような血を引いているから仕方のないことかもしれない。
 ただその性質はまったく違うのだけれど。



 ああ、そういえば説明していないところがあったみたいだけど、恐らく僕の母親との母親は同じだ。まだ確証はつかめていないけれど異父兄妹って所かな。僕のが年上だからね。だからじゃないかな、の事は恋愛対象では見ることができないし僕にはそういう呪いはかかっていない。よって女性恐怖症なんてものでもなければ子孫を残せないわけでもないんだ。それに彼女の母親はまだ生きている、は死んでると思ってるみたいなんだけどさ。






 「…待てよ、じゃあ…その父親は生きてんのか?」



 ソウル君の言葉に僕は頷く。だけど今は牢屋の中だけどね。と言えば彼は気まずそうに俯いた。かの有名な爵位を持つ財閥の親がまさかあんな狂行に走るなんて誰一人として思いもしなかっただろう。それが魅入られてしまった者の最後かもしれない。彼女の父親が最低な奴に成り下がってしまったのはそのせいだと言う人も多い、寧ろ大多数だ。魔女ですらないのに死武専生に殺されかけているくらいだから相当なものだと思うよ僕は。



 ソウル君は「お前ひとりで支えてんのかよ、大した奴だな」と言う。
 「そうでもないよ」と僕。「僕にだって恐らく罪はあるからね、彼女に助けられているだから少しでも力になれたらと考えているんだ。彼女は狂気に蝕まれているから完全に手遅れになる前に僕と共に死神様が手を打ってくださっているんだよ彼女の精神的世界に辿り着けるのは彼女に近づける人に限られる。しかも彼女の狂気に飲み込まれない精神力もいる。そういえば今ちょっと考えたんだけどねマカちゃんも恐らく彼女に入れる」



 「…どういうことだよ」
 「うーん、確かあの子って退魔の波長を持ってたはずだからもしかしたらと思って」
 まあ、所詮は戯言だけどね。確認してみないことには分からない。



 僕はケラケラと笑う。
 (さて魔女はじわりじわりと距離を詰めているように見える。情報を周りから集め僕らに迫っているのだ。しかしそれは僕だけが知っていればいい。には被害を加えさせない否加えさせる隙も与えない。彼女の娘だからと言ってそう簡単に殺させはしないからだから僕が職人として守ると誓おう)





 僕の恩人、のために。
 すべてをかけて、君を守ろう。
















三十三分間の独白





(20110317) ちょっとシリアス。次は魔女視点、彼女にも彼女の理由がある。