「だから貴方はそんな言葉を言うの、」とわたしが問えば彼は「バーカそんなんじゃねぇよ」と口を尖らせた。彼が気づいていないだけで、彼はよく女の子にモテるからわたしはどうしようもないくらいに嫉妬しているのだ。誰にでも優しい彼。そんな所が好きになってしまったというのに、なんてわたしは愚かな人間なんだろう。でも彼はそんな愚かなわたしを好きだと、豪語してくれるのだ。嬉しくないはずは、なかった。
 それでもやはり嫉妬してしまう。なんてわたしは醜いのだろう。こんなひどく醜い自分がとても嫌になる。ああ、なんでこうなってしまうのだろう。本当は素直になって、彼と一緒に喜んで人を助ける依頼をしたいと思っているのにどうして私情をいちいちはさんでしまうのだろう。気づいたら彼の近くにいることを望んでいる、気づいたら彼に近づきたいと思っている、結局わたしは人助けと言いながらも私情をはさんでしか行動の出来ない愚か者なのだ、ほんとうに、いやになる。


 「佑助くん、」
 「なんだよ、急に改まって」
 「ううん、…なんでもない」
 呼んでみただけ、とわたしが笑うと佑助君はそっかと一言だけ返して少し黙る。わたしは何を血迷って恋人みたいな事をしているのだろうな、なんて思ってきっとわたしだけ見て欲しいとか思ってるんだろうな、なんて考える。浅ましい考えだと、下を向く。どうして、いつもこうなのだろう。どうしてと投げかけた所で帰ってこない答えに、自問自答を繰り返す。
 わたしは彼のことがずっとずっと大好きだったし、これからもずっとずっと大好きだと思うけれど彼がそうであると断言できるわけではない。二文字の言葉でも表せないくらいにぎゅっと凝縮された濃縮液のような気持ちが詰まっている、わたしの気持ちなんて知ったらきっと気持ち悪いと言うだろう。だけどやっぱり流れ出そうになる気持ちの渦を思い切って吐き出すような勇気すらわたしは持ち合わせてはいないのだ。そんな、自分が嫌いだ。
 陳腐な言葉で、表すような気持ちならば捨ててしまえばいいのに。捨てられたらこんなに苦しい思いなんてしなくて済むのに、どろどろと胸の中でうずまくその気持ちに名前なんてつけても醜くて汚らわしく浅ましいような名前しか付かないだろう。


 「はぁー、ったく辛気臭い顔すんなよな」
 「…佑助くん」
 わたしが顔を上げれば、ちょんと額を小突かれた。


 「お前は笑った顔が一番なんだからさ、いつも笑ってりゃいいんだって。そりゃ、まあ落ち込んだりする事もあるかもしんねーけど、だいたいクヨクヨ悩んだ所で行動しないと解決なんてするわけねーだろ。全部一人で抱え込みすぎなんだよ、お前は」  胸の中にあるどろどろとしたかたまりのようなものが、するすると砂時計の砂が流れ落ちていくようにゆるやかに消えていくような気がした。そうなのかもしれない、と思わせるような事をこの人はときどき言う。見ていないようで、実はわたしのことを見ていてくれるのかもしれないなんて少し自惚れかもしれないけれどわたしはやっぱり彼のこういうところが好きだから。
 わたしも、彼の落ち込んだ顔より笑っている顔の方が好きだから。


 「そう、かな?」
 「そーだよ」
 彼の言葉でならぜんぶぜんぶ、わたしの中のわだかまりが溶けてなくなる気がするから。ああやっぱり惚れた弱みって言うやつなんだろうな、とわたしは思って彼に「ありがとう」とお礼を言う。彼は少しそっぽを向いて「おう、」とだけ言う。照れているんだろうな、なんて一人勝手に考えてみたりするわたし。ああ、やっぱり心底惚れているというのは、厄介だ。一言でこんなにも、心が高鳴るのを感じる。一言一言がぜんぶ、わたしの中に溜まっていく。わたしの中にいるいやなものをぜんぶぜんぶ溶かしていく。
 まるで、魔法のような言葉。どんな陳腐な言葉だって彼にかかればぜんぶきらびやかなものに変わっていくのだ、これが惚れた弱みだってちゃあんと知っている。


 だから、






 ころり、とガラス球が転がったような気がした。










ラス玉のような陳腐
お題 ::雪ある厳間の月を愛で 様










(20100410)ちょっとスケ団週間