色々と事情が絡まった複雑な合縁奇縁をたらいまわしにされながら辿っていくと、最終的に行き着いたのは聞いたことも無いような部活だったという事は忘れがたい事実であり突きつけられた現実だった。そんなことは言うまでもなく分かっているけれど、言わないとなんだか自分がさらに惨めになったようななんだか妙な気分になってくるから不思議だ。みんながみんなして面倒くさそうな顔をして、あの子に聞きなよと同じ台詞を吐く姿を何度見てきたことだろうか。私はぼうっと部室の前に立ちすくみながら入ろうか入るまいか悩んでいた。
 無論、全く知らない部活だという訳ではない。クラスでもそれはもう色々な意味で話題に上がっている事もあるし、実際に助けられたという話も聞くのだけれどいまいちピンとこない。現実味の無いような、それでいて頼られているような利用されているような利用される事を生業としているような、不思議な部活だった。


 スケット団。
 確か部長が隣のクラスの藤崎くんとか何とかだったと思う。うろうろ、としか憶えてはいないけれど。一年生の時に見たときには校則について知らないのかというくらいに妙な帽子を被っていて制服の名残くらいしか制服の形が残っていないくらいに制服を改造していて、なんだか怖そうな人だなあと思うのは人見知りの強い私の悪い癖だった。自分の理解できない人はみんな怖いし、ましてや校則違反なんてしている人はもっと怖い。だから出来るだけ、自然に近づかないようにしてきたけれど日直や掃除当番でたまに顔を合わせることにはなるので完全に知らないと言うわけではなく何となくクラスにいたなあと思い出せるようなそんな人。


 「どうしよう」
 部室にいきなり入るのも気が引けるし、もしいなかったらいなかったで惨めさに拍車が掛かる。ノックしかけて、行き場のなくなった手を空中で止める。会った所でどうしろというのだろう、私はしゅんと俯いた。話す言葉なんて見つからないし、私が入って帰って場の空気を悪くしてしまったら、なんだか悪い気がする。


 「って入らねぇのかよ!」
 「ひぃ!」
 唐突に後ろから突込みが入って、その声に反応して振り返った私は短い悲鳴をあげると思わずじりりとその場からあとずさった。
 どうしよう、……彼だ。


 藤崎くんだ。


 「部室の前で何やってんだよ、えーと、確か」独特のトレードマークである赤い帽子とゴーグルを頭に装備している彼は、私の名前を思い出そうとしているらしくうんうんと唸って考えている。「あ、そうだ、思い出した。あれだろ、だろ」
 「え、あ、あの」
 「あ、えーっと、その、……もしかして依頼か?」
 「そう、です」
 出来るだけ自然に答えようとしたけれど急な展開について行けなくて頭が真っ白になるかならないかのところでぐるんぐるんと回っている。既になにもかもオーバーヒート寸前だった。生憎まわりには誰もいないし(居るとしたらきっとこの部室の中か、グラウンドの運動部くらいだ)頼れる友人もみんなものぐさな子ばかりだから相談すらたらい回しで、いざという時にとことん頼れないなんて理不尽すぎる。何て理不尽なんだろう、と少し頭が落ち着きを取り戻しかけたところに、藤崎くんが口を開いた。


 「じゃあそんなところにボサっと立ってねぇで、とっとと入りゃいーんじゃねーの?」
 「あ、ありがと!」
 「茶くらいは出すからよ」
 「え、」私は、お茶が出るのかぁと呑気な事を考える。「うん」
 がちゃり、と藤崎くんが扉を開けた。何にしろ、きっかけがあったのは少しだけありがたいと思う。私は藤崎君のあとについて、ひょこひょこと部室にお邪魔する事にした。










 「まあ、適当にあのベンチにでも座って気楽に待っててくれよ」
 「え、」きょろきょろ、と部屋を見回して私はベンチを確認する。「うん。あ、ありがとう」
 「まだ今日はあいつらいねーみたいだからさ、」部室の隅の畳にでーんと腰掛ける。「あ、あいつらっていうのはヒメコとスイッチのことな」
 「えっと…金髪の人と、笛吹くんだよね」
 「おー、そうそう」
 私はベンチに腰を下ろす。藤崎くんがお茶お茶、といいながら立ち上がってポットの方へ向かい、「ダージリンでいいか?」と聞く。私は紅茶には少しだけ疎いのでうん、と頷いた。アールグレイ、アフタヌーン、ダージリン、ジャスミン、アップル、レモン、ミルク、午後ティー。よく飲むのはそのくらいだと思う、藤崎君はなれたような動作で紅茶を入れる。アールグレイ独特の香ばしい匂いが漂ってきて、ああいいにおいと思った。
 「ほらよ、」
 そう言って紅茶を一杯、私のほうへ出して、もう一つのティーカップを持ちながら藤崎君は言う。「で、どんな依頼なんだ?」

 それがね、と私がかいつまんで話せば藤崎くんがうーんと唸る。


 「渋い話だな」
 「うーん、そうかな?」私は首をかしげる。「そこまで渋くは無いかもしれないけど、どちらかといえばハードボイルドってかんじかな!」
 「うわ、それ一本取られた気がする…! っていうかよ、そもそも相談するくらいならなんでそんな面倒な事引き受けるんだよ」
 「えっと、その人が困ってたからかな。……ほら、普段困らなさそうな人だから心配になっちゃって」
 「あー、なるほどな」藤崎君は一瞬だけ驚いたような顔をして、次の瞬間にはうんうんと頷く。「でもあるよな、そういうのって」

 まあだからこういう事してるわけだしな、と言って彼はニッと笑った。




 自分のやりたい事をして、それを嬉しそうに話している少しだけ藤崎くんがカッコよく見えて、
 私は笑いながら、そうだねと一言だけ返事をした。











ルガナイト











 キラキラ恋しさまへささげ物です。初ボッスンで至らない所が多々ありますがご愛護いただければ幸いです。(20100408)