病院独特の、何かの薬品のにおいで目が覚める。白い天井が視界に飛び込んでくると同時に、私は自分のみに何が起こったのかを察した。そうだ、私は任務中に。腕を見れば、その部分は丁寧にギプスで固定されており、動かないようにと念を入れて包帯で巻いてあった。私はベッドからむくりと起き上がって周りの様子を見る。



 随分と、過酷だったような、そんなあいまいな記憶が残っている。
 自分の記憶力はこれほどにも弱かったのかと、自己嫌悪したがそうして自分の記憶の糸をたどっているうちに私以外の仲間はそう言えばほぼ全滅に近い状態だったと思い出す。私は現実逃避をしたかったのか、と脳内に問いかけて見ても返事は無い。当たり前だ。


 そう、記憶のそこから手繰り寄せたのは、事態が収束しようとした時に現れたあの人の白い幻影。
 さすがだな、なんて思いながら遠ざかる意識の中で私は彼に助けられて里まで連れて来てもらった。


 私がそこまで思い出したところで、病室の個室のドアがコンコンと二回ノックされ「どうぞ」と言うと「失礼するよ」の声と共に木の葉の白い牙がするりと音も立てずに入ってきた。歩いてベッドの横にある椅子に座る彼は、安堵したようにため息をついた。




 「無事でよかったよ、
 「アナタが助けてくれなかったら死んでいたわ、サクモ」




 私は、まだ起きていない筋肉を無理やり動かして歪な笑顔を作った。




 「でもまだ本調子じゃ、ないみたいだね」
 「ええ、でも起き上がれるくらいには回復したわ」
 あと無駄口をたたけるようにもなったの、と彼に言うと彼は「そうか」と笑った。




 その微笑みはまるで毒薬のように私を蝕んでいく。
 私もニコリとつられて笑えば、胸がちくりと刺すように痛んだ。そうね、これが恋なのかと自覚するまでも無く私は彼に夢中すぎてもはやどうしようもない。せめてこの時間が少しでも長く続くといいな、なんて心の奥底で思っている私は彼から目が話せない。


 「じゃ、また来るよ」
 「ええ。助けてくれて、ありがとう」




 そんな甘ったるい礼の文句を唱えると、彼はやはりその微笑を浮かべて扉を閉めた。
 ああ、なんて依存性のある、毒なのか。






 私はぽっかりと空いた空白に、引き攣った筋肉で苦笑した。












(甘くて白い毒 )















お題::farfalla





 拍手第一弾、はたけサクモ氏。あれ、喋り方が分からない…そんな、マイナーキャラすぎる…だと!?
2009.07.29 サイカ