憧れと恋心は似て非なるものだと思っていた。 だから、私が過去の全ての恋愛感情を殺そうとして努力してきた事は言うまでも無い。趣味が変わっていると言われ続け、恋の一つもしないのかと友人に眉をしかめられながらも私は必死に私の中から出ようとしている感情に鍵をかけて蓋をした。だって私が『憧れ』続けているのが私とは釣り合う訳も無い存在の人だから、もう私には手の施しようはない。 私はぶらぶらと街中を歩きながら、買い物帰りに物思いに耽っていた。 「あ、ねーちゃんだってばよ」 「あ、その声はナルト君」 ふと気づけば、前方20メートル前後の場所からナルト君が走ってくるのが見えた。いつも通りかわらないな、と気持ちがほころぶのが分かる。彼が一歩足を踏み出すたびに四代目ゆずりとよく称される金髪が風にたなびいて揺れている。「おーい」なんてぶんぶんと手を振ってこちらに向かってくる彼を見ていると、やっぱりナルト君だななんて当たり前のような事を感じた。 「ひさしぶりね、」私はにこりと微笑む。「任務の帰り?」 「おう、でもDランク任務だから全然たいした事ないってばよ」苦笑交じりに頭をかくナルト君。 「そんなことないって、やり遂げることに意味があるのよ」と、私。 「うーん、でもまだ迷子になった猫の捕獲とかそんなんばっかでつまんねーってばよ」 「ほら、諦めたらそこで終わってしまうけれど、続ける事によって何か見えてくるかもしれない。塵も積もれば山となるから、Dランクをこなし続ければいずれその上のAランク任務が回ってくるかもしれない」 私が言い終えるとナルト君は複雑な表情でこちらを見ていた。しまった、つい説教くさくなってしまったと頭を抱える。 「やっぱねーちゃんの言ってることって難しいよな、なんかこう『テツガクテキ』っていうかさ!」 「ナルト君にはそう聞こえるのかー」私はくすくすと笑った。 「でもさでもさ、オレにAランク任務ってできると思う?」 「出来るようになるよ、ナルト君なら」 「さっすがねーちゃん! オレのこと分かってるってばよ」 ナルト君はニカッと笑ってガッツポーズ。私は何となくそれを見て昼御飯を作らないといけない事を思い出した。どうせ一人分も二人分も作る手間は変わらないからラーメンが主食のナルト君を一緒に誘ってしまってはどうだろうかと言うよく分からない思考が働き、私は彼を誘ってみる事にする。さすがにラーメンばかりでは栄養バランスが良くないからたまに面倒を見てやってくれとあの人に言われたばかりだったのも、理由の一つ。 「そういえば、ナルト君。そろそろお昼時だから家に昼御飯でも食べに来ない?」 「え、それってば本当!?」と、驚いて目を丸くしているナルト君。やっぱり突然会って突然誘われては誰しもがこんな反応をするのだろうと私は思う。「嘘ついてどうするの」と、くすくすと苦笑する私に、ナルト君はぱあっとその顔を輝かせた。 「もちろん行くってばよ」 私たちがいた場所から家まではたった数分の距離だったので、のんびり歩いていたというのにあっという間に家に着いてしまった。ナルト君が私の家、というよりマンションの一室に来るのはこれで二回目になると思う。ナルト君と昼御飯のメニューについての話題で一通り盛り上がったところで、私はキッチンで昼御飯の準備をはじめる事にした。 「ねーちゃん、あのさ」 「ん、何?」 ナルト君の問いかけに私は首をかしげる。このキッチン、作業をしながらリビングが見える仕様となっているので話すのがとても楽である。私は結局カレーになった夕飯の具をすばやく切って鍋に入れ、炒め始める。ナルト君は、ボーっとテレビを見ながらリビングのソファで胡坐をかいて座っていた。 「ねーちゃんってば、カカシ先生が好きなのか?」 「え、」そんな唐突に聞かれたところで、疑問符しか私の口からは出てこない。「どうして」 「見てれば分かるってばよ」 「いや、」私は少し口ごもる。次の瞬間に「憧れなんだよ」と口から社交辞令が出てきた。 ナルト君は、テレビを見たまま話している。私は鍋でジャガイモを焦がさないように炒めて水とカレー粉を入れる。 「カカシ先生ってばホントあの変な本手放さねーし」変な本とは多分いちゃいちゃ何とかという本だろう。 「うん」 「いっつも待ち合わせのとき遅刻するし」 「うん」 「いっつも考えてる事よく分かんないし」 「うん」 そうだよなあ、なんて思い出す。一緒に買ってきた隠し味のチョコレートをひとつつまんで、口に運ぶ。ほろ苦いこの甘さは、まるであの人のように癖のあるほのかな甘さ。なんてそんな馬鹿で阿呆みたいなことが現実的にあるわけがないと首を振って現実に戻ってくる。 「女の人の影が絶えないし」 しかし、ナルト君のその言葉を聴いた瞬間に腹のそこから燃え上がるように突き抜けていく電光を、無力な私は感じる事しか出来なかった。抵抗するすべを持ち合わせていなかったと言うのが正しい。この無性にいらいらとする感覚はなんなのだろうかと考えてみたけれど、思い当たる限りこれは嫉妬と言うどうしようもなく醜い感情だと言う事に気づいて私は思わず口に運ぼうとしていた2個目のチョコレートを取り落とした。今の言葉に簡単に動揺しているなんて、そんな馬鹿な。 ふと気づけばナルト君はこちらを見ていた。 「ねーちゃんってば、どうしたんだってばよ」 「え、いや」私は口ごもる。「ちょっと考え事をしていただけ」 冗談だってばよ、なんて笑う彼に私は曖昧に笑って俯くと、彼はあからさまに眉をひそめた。 「ずるいってばよ、ねーちゃん」 「え?」なにがずるいのか、私には心当たりがない。 いや、一つだけある。チョコレート一人で食べてた事かな、と思いながら鍋をぐるぐるとかき回す。 「だって、ずっとオレの事見てくれねーし」 私が俯いた顔を上げて彼を見ると「そういう意味じゃないってばよ」と言葉が返ってくる。 「え?」再び私が、ナルト君に疑問符を返すとナルト君はニカッと笑った。 「ま、オレが火影になったら教えてやってもいいってばよ」 混乱する私を楽しそうに見るナルト君につられて、私は訳も分からず曖昧に笑った。
(真昼の午後、転がるチョコレートの残響)
ご親切にもこの辺境地へと相互をしてくださった睦さまに献上させていただく品です。リクエストが『ナルト夢でヒロインがナルトより年上で嫉妬ネタ』ということでしたので…ちょっとカッコいい感じにカカシ先生に嫉妬しているナルトです。話を考えていたら結果的に「嫉妬=三角関係」となりました。このような落ちてない夢でいいのかどうか不安でいっぱいですが、よろしければ煮るなり焼くなりしてお湯をかけて三分待って食べて下さると嬉しいです。それではありがとうございました!(20090816サイカ) |