明日は晴れるだろうか、という希望的観測は叶う事は無かった。




 今日はあいにくの曇天。中途半端で、割り切れないモヤモヤした気持ちが残る。雲は灰色に濁っていて、いつ雨が降ってもおかしくはない。気分は最悪だ。私は、里の本屋から買い物を終えて出ると家へと真っすぐに帰る事にした。雨が降る前に、家に帰らなくては。傘は一応持ってきたが傘を差して帰るのは面倒だった。


 「あ! 珍しいってばよ、
 「あぁ、うずまきナルト」
 面倒な奴に捕まってしまった。振り切るのには時間がかかりそうである。しかし見つかってしまって声もかけられては、相手をしないわけにもいかない。私はため息をつく。顔をしかめる。彼の事は別段嫌いではないが、相手をすると三分の二の高確率で面倒な事に巻き込まれるので関わり合いになるのは控えている。私の日常生活における細々とした予定事項に支障をきたすからだ。それ以外の理由は無い。現時点でも家に真っすぐに帰るという予定を崩されてしまった。そして、家に帰れないと言う事は本も読めないという事のようだ。私は名残惜しく本の事を諦めて、彼の相手をしてあげる事にする。


 「ったく、お前ってばいっつも物帳面で何考えてるか全然わかんねーってばよ」
 腕を組んで彼は、むーっと首を傾げる。「サスケみてーだもん。あ、でもお前のほうが全然とっつきやすいってばよ」
 『全然』の後には否定語が来ると言う事を彼は知らないのだろうか、と思いながら私は空を指差す。


 「雨が降りそうなの、早く帰らないと一雨来るわよ」私は続ける。「雨に降られて全身ずぶ濡れ、次の日には風邪」
 私の言葉に、彼は右手を目の上にかざして空を見上げた。
 「すっげぇー、空が灰色になってるってばよ」
 「感心するところじゃないでしょ」私はクスクスと笑う。
 ナルトの相手をするのは面倒だが、彼の表情はころころと変貌を遂げて見ていて飽きない。とても面白い奴だと思う。


 「で、私を引き止めたのにはちゃんと理由があるのよね」
 私が問えば、彼は思い出したようにポンと手を打った。
 「だってさ、が外に出てるの、任務の帰り以外で見た事ねーもん」
 「あぁ、そっか」
 納得。私は、だいたい家にいる事が多い。外出するのは本を買いに行く時か、夕飯のおつかいを頼まれた時かのどちらか。本を買いに行くのは、新刊が出た時に一気に買うだけなので頻度は少ない。そして夕飯のおつかいも頼まれる事は極めて少ない。なので私は任務以外では家の敷地の外に出ない、引きこもりだ。何をしているかと言えば、本を読んでいるか修行をしているかのどちらか。任務がないからと言って本ばかり読んで、修行の一つもしなければ体は鈍って動かなくなり任務に支障をきたしてしまうおそれがある。だから毎日の修行は欠かさない。もちろん、家の敷地の中でしかやらないのだが。


 「だろー?」彼は右手人差し指を私の前に、ぐいっと近づけてくる。一歩あとずさると、彼はこちらに向けていた人差し指を元の位置まで戻して腕を組んだ。「ってば『みすてりあす』だって、みんなが話してるの聞いたってばよ」
 「ミステリアス、か」私の認識は、そんなもんなのだろうか。と、クスクスと笑う。「まぁ、みんながそう見えるならいいんじゃない?」
 「ふーん、で、どういう意味なんだってばよ」
 …知らなかったのか。私は彼にも分かる言葉に言い換えるための言葉を頭の中ですばやく捜す。
 「分かりやすく言えば『不思議でよく分からない人』ってところ」
 「へぇー、当たってるってばよ」
 「まあね、みんな観察眼が鋭いから」
 「でもでも、は笑うとすっげー可愛いってばよ」
 そして声のトーンを落として、「サクラちゃんは笑ってる時は可愛いのに怒ると恐ぇーってばよ」と言う。
 「恋する女の子はみんな可愛いって、」私はナルトの頭を本の紙袋を持っていないほうの手で軽く小突く。「まあ私は全然だけどね」
 ハハハ、と笑うとナルトは不満げな表情で首を傾げた。
 「それって関係してんのかってばよ」
 「分かんないけど」
 「わかんねーのかよ!」
 ノリ突っ込みをする彼に私はまたクスクスと笑う。




 そしてポツリポツリという、冷たい、何か。




 折りたたみの傘をすばやく取り出して開く私。
 危ない、本が濡れてしまう所だった。


 「うっわー、雨だってばよ! っていうか一人だけ傘持ってずりーってばよ」
 じとー、っとこちらを見るナルト。私は先ほどから雨が降ると言っていたはずだと思いながらため息をついて、もう一本鞄の中に持っている折り畳み傘を彼に差し出す。彼はきょとん、とした表情。
 「ほら、これ使いな」
 「え、…あ、ありがとな、!」
 彼は、頭を掻きながら右手で傘を受け取る。


 「どういたしまして。あ、風邪引くなよ、ナルト」
 私はニコリと彼に微笑むと、「傘、返すのは今度会った時でいいから」と一言。
 「え?」
 「じゃあ、またね」
 私は、疑問符を浮かべたままの彼を通り過ぎて、そのまま家に向かって歩き出す。






 後ろから、「次って言っても、いつ会えるかわかんねーってばよ!」なんて声が聞こえてきたので、
 「そのうち会えるでしょー」と私は呑気に返答した。










御題提供:鴉の鉤爪





 気分的に一期ナルトです。お題と合ってないなんてのは、いつもの事ですねわかります。
 口調が決まっててとても台詞書きやすいですね、文章の表現力は相変わらず残念の一言に尽きますけど。
 あいにく管理人はファンブック新しいやつ買ってないので暁の情報が全く分かりません。ペインしか覚えられないよ。
 …だって彼、実はシャムとヒルトンの仲間だったなんて…ああ馬鹿騒ぎ! ってこのネタきっと通じないですよねすいません。ああ、情報が足りない!
 2009.03.23