パタンとドアが閉じて、どうしようもない孤独感がふとわたしを襲う。解剖されて、そして嬲られて、その繰り返しの毎日は、わたしの精神を着々と削っている。愛とはなんだったか、とおもう。そして一人になったときどうしようもない喪失感、焦燥感が、からだを駆け巡る。求められているのか、それとも、求められてもいないのか。ただ、そこにあるだけのものとして仕方なく使われている。それだけなのかもしれない。それだけのそんざい。わたしはちっぽけである。


 「ねぇ、どうして殺せないの」
 「さアな」そして、にやりとわらった彼は首をかしげてさもおもしろそうに言葉を続けた。「確実に死んでもいい場所を刺してるが、お前は死なない。俺にも理由はわからねェが……確実に言えるのは仏頂面屋、お前の内部組織は超速再生を繰り返してるって事くらいだ。それこそ、悪魔の実でも食ったんじゃねェか、ってくらいにはな」

 「わたしはこんな能力、別に欲しくなかったのに」
 「俺はお前に興味がある。刺されても殴られてもいたぶられても何をされようが表情一つ変わらねェってのは、どうだ。お前は痛覚が無いのか」


 奇妙な質問だった。わたしだって殴られたら痛い。そして斬られても、刺されても、皮膚組織のしたに感覚神経が通っているから、痛覚は感じるのだ。いたいよ、こころだって、とても。


 「ある」


 そう言うと、彼はわたしの心臓にそこにあったメスを突き刺した。普通の人間なら即死だというのに、わたしの心臓は動き続ける。じくじくと襲う痛みに、もう慣れてきてしまった。ああ、もう時間を巻き戻すように血液が伝ったところを這い戻っていく。なんてえげつないの。だからわたしはこの体が、大嫌いだ。もっと純粋に、生きたい。刺されたら死ぬ。それでいいじゃないか。わたしはもう、何百という回数、死んでいる。そして蘇っている。


 「あなたが刺した傷が疼くの」


 馬鹿みたいに、疼くの。
 そう言えば、彼はいつものようにわらって、刺したそれを引き抜いた。じくりと、傷跡がまたふえる。



(20130122|×|空で溺れる魚の幸福)