死んでしまえばいいのに、と彼女は歌のように残酷な言葉を口ずさみながら僕の手前を歩いていく。汚い言葉のはずなのだけれども、そんな事をみじんも感じさせないような綺麗な声をしている。天使がいるならこんな声なんじゃないかと思わせるような、透き通った声。しかしそんな彼女は兄さんが好きで、その理由は兄さんがサタンの力を受け継いでいるからに他ならない。僕がその力を受け継いでいたなら、彼女はこちらを向いてくれただろうか。こちらを振り向いて名前を呼んでくれる彼女は僕を介して兄さんの方しか見ていないのを僕は知っているし、僕の気持ちに気付いていながらも気持ちのないスキンシップを繰り返す。使い魔として僕の元へ来た彼女は、本来ならばパラディンや上級悪魔としか契約しないはずの上一級危険種である。彼女が僕との契約を承諾しているのは、彼女がサタンの血に恋焦がれているからなのだろうか。まあ考えたところで本当の目的は彼女にしかわからないことで僕の推測になってしまうのだけれど、恐らくそれは事実に近い推測だろうと僕は思うわけで。こんなにも彼女を思う気持ちばかりが膨らんでいくのは、やはり彼女が人にあらざる魅力を持っているからなのだろうか。
 神父さんの使い魔であったという彼女が例外として僕の元に来ているのは、僕の心を盗むためだろうか。…なんて冗談だけど。



 「ユキオ?」
 「あ、ああごめんごめん…ちょっと考え事してた」



 いつの間にか彼女が僕の横で、くいくいっと僕の服の袖を引っ張っていた。身長が160あるかないか程度の彼女は僕よりも頭一つ小さい。人間とは一線を隔するような、人間のようで人間とは思えない透き通ったような美しさをもつ存在。現時点で彼女たちの種族は五名が騎士団の手の内にいるらしく中でも大賢者の血をひくとされる彼女は厳重に保護されるべき存在であり、その自由はあってないようなものといわれている。色素の少ない彼女はいつの間にか消えてしまいそうで、儚くて、それを守りきれる自信もまだなくて。寧ろ僕の方が守られてばかりいるのが情けないが今の現状だ。



 「今日の任務は?」
 「大量発生したグールの退治だよ」
 「ふうん」



 興味のなさそうに生返事を彼女は返す。いつも通りのやりとりは今日も通常運転中だった。どうやら今日の日中から公園内で大量のグールが発生しているらしい、何の影響なのかは分からないが僕まで駆り出されるのだからとんでもなく大量に発生しているのだろうと推測する。公園近辺は一時立ち入り禁止となっており、周辺への警戒配備までついているそうだ。いったい原因はななんなのだろうか、そのあたりはまだ解明中という事だったので僕にはわからない。















 しばらく歩いて公園に着くと重度の警戒態勢が見える。



 「遅れてすみません」と駆け寄れば、とんでもないサイズのグールと小さなグールが何匹かそこに点在している。
 「奥村君、来てくれたんだねありがとう」
 「説明はあとでします、すみませんが援護おねがいします」



 「はい」



 グールは今いる七人の祓魔師によって退治されているようだが、そのスピードでまた新たにどこからかわき出ている。僕も加勢に加わり銃で何発かグールに銃弾を命中させる。グールの肉が爆ぜて、べしゃあと地面に散って浄化する。誰かが聖水を投げて動きが鈍ったところをパンパンと休みなく撃つが、それと同様に数がどんどん増えていく。小さいのを何匹倒しても同じならばとんでもないサイズのあのグールを狙うしか。



 「
 「……」
 彼女は無言で頷いて、詠唱を始める。その言葉は物質界の言語ではなく虚無界のほうの言語らしく聞き取れるような代物ではない。すらすらと唱える彼女はグールの致死節を心得ているらしく、グールたちは彼女が歌うように唱え始めた途端に動きが鈍くなった。一斉射撃がはじまり通常サイズのグールがようやくほぼ壊滅する。巨大グールは彼女の歌うような詠唱が佳境に差し掛かったところで、べしゃ、と爆ぜて浄化した。

 僕はそのまま怪我人の治療へと奔走し始める。彼女はふわぁ、とあくびをして僕の後をちょこちょことついてまわってきた。何をするわけでもないけれども、僕の治療を興味深そうにじいっと眺めてくる。怪我人の包帯を巻き終わったところで、どうしたのかと彼女に視線を送れば彼女は「人間は脆すぎて見ているこっちが辛いわ」と言うとぷいっとそっぽを向いてしまった。僕は苦笑する。



 「まあね、君と比べたら寿命も短いし脆いよ」立ち上がり、彼女が歩き始めた後を僕が歩きながら隣に並ぶ。
 「…いつもいつも置いていかれるなんて、とんだ悲劇のヒロインみたい」 はぁ、とため息をつく彼女。
 「そういえばの種族には男の人って」そう言った僕の言葉を遮るように、彼女は言葉をつなげた。
 「こっちでは順応できないの。私たちはいずれ身を滅ぼすしかない、そういうさだめの元に生きてるから」



 女って強いのよ、と彼女は少しだけ挑発的に、笑った。

















(20110814:titleソザイそざい素材 )どろどろの昼ドラ展開をいちどやりたったのね、っていう