馬鹿ね、とは笑った。それは見ていて不快ではなく気分がすがすがしくなるような笑い方で。彼女はやっぱり何だか不思議な魅力を持っているんだと思えるような。物心ついた時にはいなかった母親がいたらこのくらいいい奴だったのかな、なんて。でも、そうじゃなくて、こんなに胸がきゅうっとなる感覚は、このどきどきする気持ちに気付いていないなんて野暮な事、そんな事は、いくら俺だからって、そんな事あるわけない。しえみだってかわいい、し、どきどきする。それでも、その気持ちよりも、彼女の存在が俺の中でだんだん大きくなっている。風船の空気がふくらむみたいな、…なんつーか、うまく言えねェけど。多分、俺…



 「…燐、どうかした? 機嫌悪くなった?」



 小首を傾げながら、は俺が座っている部屋の二段ベッドの横に腰かけた。そのまま少しだけ綺麗な顔を顰めながら俺の顔を覗き込んでくるけど、距離が近い。俺はやっぱりそう言う事考えちまうっていうか…! やっぱり! 好きな奴って大事にしてやりたいわけで! だからその、そういうタイミングってあるわけで…



 「べ、別にそんなんじゃねーよ!」
 「あ、そう」



 そっけない返事と共に彼女がベッドから立ち上がる。ぎしり、とベットがゆれて、俺が不覚にも普段見えないのうなじが見えてどきっとしたとかそんな事は断じてない。俺はなんだか一人で気まずくなってから視線を逸らして、またその後ろ姿を目で追いかける。そういえばこいつ、いつも学校制服を着ている。上は男子用シャツにネクタイをリボン結びして学ランに袖を通し、下は女子のスカート、紺のハイソックス。一回どうしてそんな恰好なのか聞いた事がある、でもあからさまに嫌そうな顔をされて答えは返ってこなかった。一体何がどうなってるのかは謎のままだった。



 「掛けていい、これ」 がラジカセの近くに積んであるCDを持って俺の方を振り返る。
 「あ、…お、おう…いいぜ」



 雪男はそう言えばしえみの家に買いだし、とか言って出て行ったからそういえば二人きりなわけで。じゃららん、と音楽が鳴る中で、と二人きりなんて考えてたら、心臓がもたねーことが分かった。当のは何食わぬ顔で、いつも通りのポーカーフェイスを装ったまま、俺の護衛(らしい)を続けている。雪男の奴は「さんがいれば兄さんの事もあんしんだよね」とか抜かして出ていきやがって…と思ったけど二人きりって状況はなんだか嬉しくて悔しかった。






 静かに流れる音楽と、あくびをしてうつらうつらし始めた。まつ毛がほんと長くて生きてるフランス人形みたいだ。
 可愛くてどきっとしたけど、だんだん俺も眠たくなってきて、いつの間にか視界がブラックアウトする。






















 (20110703:titleソザイそざい素材)そして雪男に二人そろってベッドで寝てるところを見られちゃってなんかアレなかんじになるわけですね。私の中でもっと燐ちゃんはあほの子でもっと語彙力が少ないですが説明上それだと不鮮明すぎて読者に伝わりにくい文章になってしまうので私の中で少しだけ神の声の修正が入ってます 色恋沙汰に悶える燐ちゃんかわいい…そんな私は雪しえ派