騎士團にとって、私たちと言う存在はあってないようでありそれでも無くてはならない欠かせないもののようなまるで曖昧なものらしい。そんな曖昧な存在ならば無くてもいいのではないかと言えば、そうでもなく、非常にまどろっこしい間柄である。あれは私の成長が止まる前の話になるのだけれども、七歳の誕生日を迎えた私を一人の悪魔が牢獄へと連れ去りに来たところまでさかのぼる。















 薄暗い部屋の中に私は一人で取り残されれていた。部屋にはベッドが一つ、ベッドと対極に入口の鉄扉。そして申し訳程度に置かれたテーブルと二つのイスが存在している。テーブルは小さなもので、二人分のトレーに乗った食事がのるくらいの大きさだった。それほど高そうではない少ない家具の並ぶ部屋は天井が異常に高く、抜け出すことができないようにという意図からか窓が三メートルほどの所から申し訳程度の光を取り入れている。そんな事をしなくとも足枷をつけられ、自由を奪われた状態で一人の少女が足がかりになるような凹凸のないコンクリートのような壁を三メートルも登りきれるとは思えない。いくら人間ではないからといえども、そんな人間離れしたような跳躍力も上りきれるような筋力もない。足枷についている鉄球のようなものは5キロほどだろうか、大人の拳程度の大きさがある。



 ため息をつきながら私はベッドの上に寝転んだ。じめじめとした匂いが鼻につく。じゃらり、と足についた鎖が音を立てた。ほんとうに厄介な鎖だと、私は思う。こんなところ他に行くあてもないのに逃げ出してどうすると言うのだろうか。正十字騎士團の考えている事は全く分からないが、フェレス卿が私の先祖と何かしら契約を結んだからこういう結果になっていると誰かに聞いたような気がする。まだサタン様の方が悪意を表面的に出している分マシな気さえする。非常に不愉快極まりない。






 「お元気ですかねぇ、ミス・






 不愉快極まりない。
 噂のフェレス卿は、鉄扉を開けてガチャリと閉めた。密室に二人、閉じ込められる。ぞわあ、と身の毛のよだつような感触が背中を伝い、私はこの人物に対して恐怖を抱いているのだろうという事が分かり顔を顰めた。非常に不愉快極まりない。私がこんな男ごときに、悪魔ごときに恐れているなどと言う事実が腹立たしかったし、実際問題実力でいったら彼には勝てないという事実も腹立たしかった。身の程をわきまえているからこそ、逆らう事が出来ないというもどかしさに耐えながら、私は目の前の男を不快そうな目で睨むことにとどめておく。






 「おぉ、せっかくの美人が台無しですよ☆ ほらほら笑ってください」



 フェレス卿はいつも通りの奇妙な格好で、奇妙なステッキを振り回しながらくるくると愉快そうなステップを踏む。しかし残念ながら、非常に不愉快極まりない。恐らくこの男の行動の八割は私の中で不快なものなのだと思う。私は眉をしかめることと無言を貫くことでこの時点で精一杯の反抗を示した。微力で何の役にも立たないような、かわいらしい悪あがきだったように思う。






 「……」



 「そんな怖い表情やめてください…っていっても貴女は聞いてくれませんかねぇ」
 「…用件は?」



 「そんな事、言わなくても貴女なら分かってるのでしょう、? 恐らく分かっていなくても勘付いてはいるはず…それくらいに私はあなたを評価しているつもりではあるのですが、不服でしたか? そうでなくとも大事な私の手駒なのですから、そのあたりをわきまえて行動してくれると私は非常にありがたい」



 フェレス卿は私に向かって一礼する。手駒だのなんだの抜かしておきながら、私の一族として生きているプライドを貶める発言を慎んでいる。私はこの男の考える事が分からない、本当に腹の内が見えない食えない男だ。こんな男一人に、一族が踊らされているなど恐らく一族の歴史の中で最も恥ずべき事であり黒歴史になること間違いない。非常に不愉快極まりない。









 「…私はどうすればいい」









 目の前の忌々しいフェレス卿を睨めば、彼はニヤリと口角を釣り上げて哂った。





















(20110703:titleソザイそざい素材 ) ///お題 ::浴槽に椿 様