が日に日にうつくしくなる。メフィストは苦虫をかみつぶしたような顔をしながら頭に入らない書類の文字を目で追っていた。自分の使い魔にはなろうとせず、人間ばかり(それも極めて実力のある祓魔師ばかりを)主人に選んでいるその感覚が理解できないことが彼のいら立ちの原因でもあった。それなりに実力があるのは確かだが、胃の中がもやもやとしているような腑に落ちない感覚がわだかまりとなって残る。だがしかしそれを認めてしまったならば彼女に対して負けを認めたようなもので自分のプライドは見るも無残に砕け散るだろう。メフィストは眉間にしわを寄せた。




 (この私が嫉妬しているなど)




 人間ごときに。
 イイ御身分である彼女の過去を知る者は決して多くは無い。両手で数えられるだけの数なのは、恐らく彼女の年も関係しているのだろう。女性の年齢にとやかく言うつもりもないが、エルフ種に至っては年齢などあって無いようなものだ。外見が年を取らない年齢になってからはもはや月日の過ぎ去るのも人間とは一線を隔するようになってしまう。それまで人間と同じようにふるまっていたところで、それは所詮運命づけられているのだから仕方のないことだった。





 そのはずである。
 だがしかし、彼女は至って平然と藤本獅郎と契約を結んだ。いとも簡単に見えてその心に何らかの気持ちの揺らぎがあったのかもしれない。





 (にもかかわらず、私を差し置いて人間に流れていくなど)





 ギリ、と苦虫をかみつぶしたような表情が表に現われそうになり、メフィストは帽子を目深にかぶる。





 (まったく、本当に私の予想をことごとく裏切る面白い人だ)
 (だからこそ手に入れておきたいと思うのかもしれませんが…)





 クツクツとこもったような笑みをこぼしながら、メフィストは夜空を眺める。
 何よりも酷い扱いを受けていた可哀そうな可憐な美少女が、今となっては愛に溺れる一人の少女へと変貌していく。優しさなどに触れた事が無いのならば、それに触れた時に感じるものはどれほど人の価値観を変える力を持つのだろうか。彼女にとって藤本獅郎とはどのような救いをもたらしたのだろうか。そして今現在、どのような存在として彼女の中に根付いているのか。










 (それ本当は私の役だったんですけどねぇ…)
 (まあ寿命はあってないようなものですし、ゆっくり待ちますか…)





 満月がとても綺麗な、うつくしい夜。夜風に当たりながら彼女の流れるようにしなやかな髪を思い出す。まるでこの世のものとは思えないほどにうつくしい容姿を持てあまし誇り高き賢明な種族であるエルフ種の、その中でも最も賢いとされる大賢者の愛娘。使役悪魔、妖魔と称される彼女らに捧ぐのは己の寿命と言われているが、どうやら藤本獅郎はその類ではないという。フハハハハ、と彼は笑った。












 (まったく面白い小娘だ…)
 (いずれ手に入れてあげますよ…)




 そして悪魔は監獄にいたころの俯いた薔薇のような人形じみたうつくしさをもつ美少女を思い浮かべてクツクツと笑う。






















(20110530:titleソザイそざい素材 ) 獅郎さんに嫉妬するメフィスト