ばたばた、っと人の家の廊下をはしたなく走っている所を母に見られたらきっとおこられるのだろうなと思いながらも、私ははやる気持ちを抑えられませんでした。一刻も早く彼に会いたくて仕方なかったのです。あれから月日が経ち周りの状況がめまぐるしく変化したおかげでしばらくの間会えませんでしたが、私の気持ちには一点の変化や曇りすら見られませんでした。今の今までずっと快晴でした。 だって、私はホロホロ君が好きなんですもの。 「ホロホロ君!」 「おわあ! だああああ、何だ!」 いつもの部屋の襖をぱあんと開けると、ちゃぶ台の隣に一回り大きくなってガタイのよくなったホロホロ君が座布団の上にちょんと座っていました。私はなんだかいてもたってもいられなくなり、気づけば彼に正面からぎゅうっと飛びついていました。驚いていた葉くんも、阿弥陀丸さんも、ボブの出ていたテレビもそのときは全然目に入らないくらいにホロホロ君しか見えていませんでした。 「おひさしぶりです、ずっと待ってました」 「!」 びっくりしているホロホロ君から少し離れて、にっこりと笑えば彼はまだ状況のつかめていない表情で目をぱちくりとさせました。それでも次の瞬間には、ぎゅうっと私の事を抱きしめてくれて、それに答えるように私もぎゅうっと彼の背中に手を回しました。そんな私の後ろから、ずかずかとアンナちゃんが部屋に入ってきます。 「おおお、アンナ。どういう事だ?」 「がふんばり温泉に帰ってきたのよ」 「作用でござるか!」 ちゃぶ台をはさんでホロホロ君の向かいに座っていた葉くんが、状況がつかめないとアンナちゃんに視線を向けます。それにそっけなく答えたアンナちゃんの言葉に、阿弥陀丸が嬉々とした表情で答えました。私はホロホロ君から、ぱっと離れると葉くんたちに向き直って正座をしました。そして頭を下げます。 「これからしばらくお世話になります、よろしくお願いします。アンナちゃん、葉くん、阿弥陀丸さん」私は頭を上げて続けます。「不束者ですが、お手伝いできそうな事があれば言ってください」 私がにこりと微笑むと、アンナちゃんは私の頭をぽんぽんと触りました。 「だからって好きよ」 「あ、ありがと!」 そのままアンナちゃんが襖を閉めて出て行く途中で「買出し頼んだわよ」と一言いうと、紙に書かれた買い物リストをこちらに飛ばしました。私が慌ててそれを取ると、襖のしまるぱしゃりという音がしました。 「それにしても、びっくりだよなー」 「何がでござるか、葉殿」 「いきなり来るんだもんなー、」 「ハッハッハ、殿は殿にしか予想できないでござるよ」 二人でうえっへっへと笑う葉くんたちにつられて私もくすくすと笑います。 「もう、私はそんなじゃないですよ」 「そんなんなんだよ、うえっへっへ」 葉くんの言葉に、私は少し我に返りました。「あ、買出し行ってきますね」 「おー、」葉くんは相も変わらずゆるい返事で、手を振りながら送り出してくれます。その後にホロホロ君が「お、俺も一緒についてくぜ」と言って荷物持ちでついてきてくれるのに少しどきっとしました。本当に嬉しい。そんな私はきっと幸せ者なのだろうと思います。 そういえば、アンナちゃんの買出しの紙に「幸せになりなさい、」と書かれていた優しさに私はやっぱりアンナちゃんはとても良いお嫁さんになるんだろうな、と思いました。そんなお嫁さんを貰う葉くんはとても幸せ者なのだろうと思います。それでも、私はそれ以上に幸せでした。 一度ふんばり温泉を後にしてホロホロ君と手を繋いで道沿いに歩きながら、私は自然と顔が緩むのを感じました。繋いだ手からホロホロ君の体温がじんわりと伝わってきて心地よいぬくもりがありました。こういうものをきっと小さな幸せと言うのだろうなと考えていたら、先程よりもきっと酷い顔をしているのだろうなという考えがふと頭をよぎりとたんに恥ずかしくなりました。恥ずかしさを紛らわす為にホロホロ君のほうを見れば、同じように顔が緩んでいるホロホロ君と目があってお互いに、ニッと笑いました。
(それでもこの歩みを止めない)
彼の隣で笑っていられるなら、私は毎日が幸せです。 ▲ そんなこんなで完!(20100205) |