シャーマンファイトは、終わりを告げました。 あれから数年が経って、とてもめまぐるしく周りの出来事が進んでゆきました。 あの後、私は一次予選を通過して勝ち進んでしまい母の強い勧めでアメリカへと渡航しました。母の用意した服はふりふりのひらひらで何処の19世紀フランス貴族だといったような衣装でしたが、これが正装だといわれては何の反論も出来ませんでした。少しどころか随分と恥ずかしい服装で、おまけに同じようなふりふりの傘まで一緒についていたものですから、私は呆気にとられて何も言えませんでした。鏡で見たらメリイ・ボビンズみたいでした。飛行機から下ろされるときにホロホロ君たちとは早々に離れ離れになってしまいましたが、驚いた事に私はこの景色にデ・ジャヴを感じて迷うこと無く、難なくパッチ村へとたどり着く事が出来たのです。自分でも全く信じられませんでしたが、全く運の良い事だと思い、特には何も気にしませんでした。そういえばパッチ村でグレートスピリッツを拝見いたしましたが、それはとても深く悲しくそして私の想像を絶する色々な感情や出来事が自分の中に流れ込んできました。最初は驚きましたが、それでも徐々にグレートスピリッツとも打ち解けられたような気がするまでになりました。 ふんわりとした浮遊感、そして流れ込んでくる何か新しいものに私は心許し、グレートスピリッツと少しだけ共有する何かを貰いました。きっと、ここへきたシャーマンたちも同じように何かを貰って戦いを挑むのでしょう。 『ころしあい』は、好きではありません。 そもそも、人を殺すと言う事に対して私のような世間知らずが口を出していいことではありません。戦争などは教科書の中だけで起こっていたことと信じ続ける事で、この惨い現実を現実だと認めたくなかった弱い私。戦争なんて全く関係の無い平和な世界で暮らしてきたからこそ、何も分かっちゃいない分からずやは私でした。人がこうも簡単に死んでいく、その事実は私のどこかで根強くありながらも私自身の心がそれを認めるのを拒んでいたのです。 人の命など、脆く儚い泡沫の夢にすぎません。だからこそ人は悲しみ、支えあう事を憶えたのです。 ふんばり温泉のCMがラジオから流れて、私はアクセルを踏みランタッタのスピードを上げました。ランタッタは私の足代わりとなってくれているスクーターで、私の愛車です。ランタッタは快調に道路を走っていました。ときどき、がたんがたんと伝わる砂利の軽い衝撃が心地よく、風を切ってすすむランタッタも気持ち良さそうに走っていました。 ふんばり温泉が見えてくると、その建物の前に人影が立っているのに気づきました。 「アンナちゃーん!」 「遅いわよ、」 「ランタッタでとばしてきたの、ご勘弁を」 私が彼女の前でランタッタを止めて、ヘルメットを取ります。少し冗談めかして笑えば、アンナちゃんはニッと笑って「お帰り」と私を迎え入れてくれました。ほんとうに、葉くんは良いお嫁さんをもらうのだなあと微笑ましい気持ちになりました。 「、」アンナちゃんは言いました。「あなた」 「なんでしょう」 私はアンナちゃんの隣を歩きながらランタッタを引いてふんばり温泉の敷地に足を踏み入れました。懐かしい空気がふんわりと香ってきて、ああ帰ってきたんだなという気持ちが心の中に芽生えて何故だかとても安心しました。 「しばらくここにいるのよね」 「ええ、家のごたごたが片付くまではこちらにお邪魔します」 「ま、いいけど」 アンナちゃんとはパッチ村で会ってからとても仲良くしてもらっています。つれない態度も、ぜんぶ葉くんのためを思っての事なのだから一途ですてきなお嫁さんだと私は心底尊敬しています。と言ったところ、みんなにすぐさま否定されて驚きました。気づけば、その後に話の概要を聞いていたアンナちゃんが鉄拳でみんなをのしていたので、アンナちゃんは腕も立つから不審者が来たらすぐに撃退できて羨ましいなあと思いました。 「ホロホロなら中にいるから」 「ありがとう!」 私はおそらく今日一番になるだろ笑みを浮かべてアンナちゃんにお礼を言うとルンタッタを隅っこの方に止めてふんばり温泉の建物へと入りました。
(神様がいるとしたら)
神様がいるなら、どうか争いをなくしてくれればいいのに。 ▲ (20100205) |