私がホロホロ君の手をぱっと離して席を立つと、母が腕を振り上げて私の頬めがけて右手ビンタをくり出そうとしていました。その腕が振り下ろされた瞬間に私が恐ろしくて目をつむれば、ぱあんという鋭い衝撃がありません。おそるおそる目を開いて左頬のほうをちらりと見やれば、それは私の頬に当たる直前でぴたりと止まっていました。私は驚いて目を丸くし、ぱっと母のほうに視線を向けました。母はため息をついて、今まさに叩こうとしていた私の左頬に触れました。 「ほど手のかかる子供が、この世のどこを探したらいるのかしら」 「母上、申し訳ございません。でも」 私が言おうとするや否や、母の厳しい叱咤が飛んできました。 「言い訳など聞きません。最初から全ては私の筋書きの元に進んでいるの。これもまた然るべきこと」 「それは、」 またしても言葉を待つ事無く、母は言います。 「言い訳など聞きません。何度言わせたらいいの、全ては計算の上にアガスティアが予想していたわ」 「ならば、認めてくださると言うのですね」 母はフフフ、と笑いました。とても綺麗だと、思ってしまいました。 「今回ばかりは娘の根性と頑なな意思に免除して、無罪放免」 ただし、と母は続けます。 「ホロホロ君は必ずを幸せにしなさい、さもなくば私の鉄拳をお見舞いします」 ホロホロ君は、真剣な面持ちでベンチから立ちあがって「はい」と頷きました。 「死ぬ覚悟で守り抜きなさい、傷物にでもしてむざむざと私の前に娘を突きつけでもしたらただではおきません」 母が徐々に言葉と空気に対して威圧感を放ちつつ、己が浮力を周りに少しずつ放出しながらホロホロ君を威嚇しているのが分かります。びんびんと空気による振動が伝わってきて、やはり母だなあと思いました。きっと母なりに試しているのでしょう。ホロホロ君が、私の夫となる人物に値するのかを。いわば、簡単なテストのようなものだと思われました。母は口元だけ微笑んで、彼を威圧していました。 「必ずオレが守ります、どんな事があっても傷ひとつつけさせないように守って見せます」 「覚悟は、おありですね」 キッと、母の目つきが鋭くなりました。 「もちろん、あります」 ホロホロ君の目つきも鋭くなりました。 「今回は咎めないし面倒だから戦いもしないわ。実力はある程度分かっているもの、無益な争いはしない主義なの。ただ、力量と器は認める。けれども婚姻を正式に認めるのはまだ少しばかり弊害があります」 「母上、どういう事なのですか?」 ふう、と一言母上は言います。 「シャーマンファイトがあります、面倒なので私は参加しませんがもしどうしても本気で結婚したいと言うのなら適当に予選通過くらいのことはして欲しいものですね。が本選に行く事は危ないので嫌ですが、どうしてもというのなら行かせてもいいでしょう但し死なない事が条件です」 母はぼんやりと考えながら独り言のように呟きました。そしてはっきりとした口調で言いました。 「生き遅れてはだめよ」 私の頭をぐりぐりと撫でると母はニコリと微笑みました。 ああ、やはり母は母親の代表のような母だったのだと私は再認識する事が出来ました。
(海を伝う伝言)
▲ そして流れはシャーマンファイトへ。でも途中までしか続きません。\(^o^)/ |