大好きだからこそ、ずっと一緒にいたいという想いが強く強く募っていくのは、当たり前の事でした。私たちはしばらくぼんやりとお互いの手を握り締めながら二人でベンチに座っていました。私は幸せでした、なぜなら隣にホロホロ君がいるからです。その手から伝わってくる体温と、何かあたたかい気持ちだけで今は十分すぎるほど十分でした。だからこそ、私は油断をしていたのかもしれませんでした。 盲目とは時に危機すらも見えなくなるのです。私は盲目にもかかわらず他の神経すらも衰えていました。五感など、遠く昔に置いてきたように鋭利な感覚が放置されていたのです。嗅覚も聴覚もどこへやらといった風体で、のたのたと大地をのさばっていたかと思うと私はゾッとして背筋に悪寒が走りました。色恋沙汰に足を突っ込んだ事など今の今までありませんでしたから、危機的状況の分からないくらいに盲目になってしまっているなどという了見は私には全く無かったのです。 つまり実際の所は私に対して、否、私たちに対して危機的状況が差し迫っていたという事になります。 しかし、私は気づいてはいませんでした。 「ホロホロ君」 「ああ」 「私、今とても幸せ」 「オレもだ」 私は、ついうっかり、これでうまくいったものだと思い込んでおりました。平和ボケもいいところでした。詰めが甘いにも程がありました。一度や二度逃げた所で、追っ手が諦めるなんて思っていた私が最大の馬鹿でした。母などは諦めの悪い者として私の記憶の中に根強く染み付いているはずでしたのにそれすらも頭からどこか異次元空間へと飛ばされていました。そんな事など根本から頭には無く、ただその時の私にとって見えているのはホロホロ君だけでした。 ホロホロ君が隣で笑っていてくれると言う事実。 それだけで、私も笑顔になれるのです。 甘い毒薬のようでした。 彼の微笑は私にとって麻薬のようでした。一度見たらもう彼から離れられなくなってしまうほどに、ずっとずっと一緒にいたいと思うようになっていました。彼の笑顔は私を強くしてくれますが、彼がいなければ私はとたんに精神的に崩れてしまいます。 シャーマンとして、あってはならないことでした。 依存などしてはならないことでした。 それでも、彼が大好きなのです。 もちろん、愛しているのです。 後戻りなんて、出来るはずがありません。 母の言う見合い婚のことはよく分かりましたが、しかし私はそれを踏まえた上でも彼と一緒に生きてゆくと決めたのです。私は一度決めたら動かない、母譲りの頑なな精神がありました。母がなんと言おうと私は今回の件に対しては反対する事を決意していました。母は母で私は私です。いくら言い聞かせられようと、私は見合い婚などしないと、堂々と発言をするつもりでいました。私はぎゅうと、ホロホロ君の手を握りました。 彼も、ぎゅうと私の手を握り返してくれました。 気配は気づけばすぐそこまで迫っていました。 私はすうっと、私に落ちる影を見て息を呑みました。 きっと、運命と言うのは全ての人に対してプラスマイナスゼロとなるように出来ているのでしょう。良い事が起きれば同時に、悪い事も起こり、悪い事が起これば、同時に良いことも起こる。だからこそ、秩序というものは保たれているのかもしれません。それすらも、ただ私の都合のいいように解釈されている戯言にすぎないのかもしれませんでした。そう感じざるをえませんでした。 だって、私の前に覆いかぶさった影は、それまさしく母のものだったのですから。
(残酷なほど平等)
▲ そして新しく歯車は回転する。(20100114) |