河口付近まで着たでしょうか。随分と私たちは走ってきました。ベンチが一定間隔で置いてある区画まで走った所でホロホロ君がようやく、ゆるやかな歩調に変わりました。私も彼にならってゆるやかに歩き始めます。走りやすい運動靴に感謝しました。
 ホロホロ君がベンチに腰掛けたので私も隣に腰掛けます。


 ホロホロ君はうっすらと汗をかいていました。私は自分の化粧がどうなっているか少し心配になりました。きっと酷い顔でしょう。


 「大丈夫か?」彼の言葉に私は頷きました。
 「大丈夫です」その大丈夫にはどれほどの意味がこめられていたのか分かりませんが、私の体調は大丈夫でした。見合いは、もうどうなっているのか分かりません。走ってから何時間も経ったような気がしていました。それでも実際には何分かしか経っていないのかもしれませんでした。時間の感覚はもう既にありませんが、私には彼と一緒に居られるという事実だけでもうほかには何もいりませんでした。完全に私は盲目でした。
 私はホロホロ君のほうを見ました。ずっと問いたかった事は、いざ彼を前にしてみると問えませんでした。


 「ホロホロ君」
 名前を呼ぶだけで私は精一杯でした。
 「何ホロ?」


 ホロホロ君には、いっぱい聞こうと思った事がありました。
 それでも、彼を前にすると全部全部聞こうと思った事がひっこんでいきました。 


 「話したい事がいっぱいあったはずなんです、」私は苦笑しました。「全部話そうと思ったんですけれどホロホロ君の顔を見られたのでどうでもよくなりました」
 彼は少し拍子抜けしたような表情になると、ハッハッハと笑いました。
 「実は、オレもだ」


 「え」
 「オレも、に会ったら話さない事がたくさんあったはずなんだけど、会ったら全部ふっとんでっちまった」
 彼はへらりと笑いました。そしてすぐに真剣な表情に変わりました。
 「けどよ、二つだけ言わなきゃいけねェ事があるんだ」
 「?」


 「一つ目は、見合いぶち壊して申しわけねェってこと」
 「構いません、」私は微笑みました。「私は嬉しかった」
 「二つ目は、」


 彼は少し間を置きました。




 「もし、嫁ぎ先が無いならオレの所に来いよ」




 それは悪魔の声のように甘美な言葉でした。
 まるで、セイレーンにでも騙されているのかのように私は恋と言う名の海路に迷いつつありました。きっともう抜け出せはしないのです。
 彼の言葉に対する、私の返事は決まっているようなものでした。




 「私は最初からそのつもりでした」
 そして私が微笑めば、彼は真っ赤になって私を抱きしめてくれました。














(あくまのこえ. )






























このヒロインは思い立ったらもう突っ走っていくのでとても書きやすいです。ホイホイかけます。(20100112)