私にとって彼はいまだかつて無いほどに良い戦友でした。同じ境遇に悶々と悩み、同じ戦況に同じ様な戦略で挑みました。そして私たちは成功を収めようとしています。謀反としての最高の結末です。しかしまだ喜ぶのは早いかもしれません。最後まで気を引き締めていこうと思います。
 私はとりあえずこの状況下から逃げ出す為の策を講じる為にセイレーンを呼びました。セイレーンは目に涙をいっぱいに浮かべて私に抱きついてきました。よほど心配をしていてくれたのでしょう。私は嬉しくて、よしよしと慰めてやります。


 「そっちがもしかして君の持ち霊かい?」
 「そう、隣のは母のなんです」
 「…まずいんじゃないのか?」
 彼は茄子の天ぷらを箸でつまんでもぐもぐと食べていました。私は味噌汁を飲みます。


 「母の命令が無い限り、彼は動きません」
 私が自身ありげに言うと、アガスティアは呆れたようにため息をつきました。
 「その通りです、貴殿も本当に頭が良く回るようになりました」
 「褒め言葉として受け取る事にします」
 私は味噌汁を置くと、手近な白い紐で振袖の袖を動きやすいように縛りました。


 「これで動きやすくなりました」


 私にはもう後悔はありませんでした。母から何を言われても、これだけは譲れませんでした。絶対に好きな人と結ばれたいのです。今まで我慢してきたのですから、少しの我侭くらいなら許してもらえると嬉しいです。婚期は遅れてしまうかもしれませんが、私はそれでも構いません。両親は大反対なのかもしれませんが、それならば私は駆け落ちすらもいとわない覚悟が出来ています。今回の見合いの一件で私はどれだけホロホロ君を好きになってしまっていたかが分かりました。
 もう、きっと私はホロホロ君なしでは生きていくのも困難なのです。
 私の心は、ホロホロ君の下から離れる事は出来なくなっていました。


 惚れてしまった弱みは、心をどんどんと侵食してゆきます。たった半日逢えないと言うだけでもう心がずきずきと痛むものですから私はとんだ愚か者です。恋に落ちて堕落してしまった堕天使のごとく、私の心は脆いものとなっていました。そして逆に、彼への想いはよりいっそう強いものともなっていました。


 「逃げ道は?」私はアガスティアに聞きます。父も母も確か今日は離れにいるはずでした。
 「玄関まで最短ルート」彼は言います。「ご両親は離れですからね」
 「おいおい、本格的だな」
 茄子を食べる彼はもぐもぐと口を動かして言いました。


 「でないと貴方が婿となりますが、」私はクスクスと笑いました。「決まった人がいらっしゃる貴方もそれは嫌でしょう?」
 「おお、頑張れよ。応援してるぞ」
 ひょうひょうと言う彼はとても愉快でした。またご縁が会ったら今度は奥様になる方と共にお会いしたいと思います。私は、彼にありがとうございますと一言礼を言うと、彼は私が考えていた事をそっくりそのまま言いました。


 「今度会うときは君の旦那になる奴と一緒に会えるといいな」
 「私も今、貴方の奥さんになられる方と一緒にお会いできるといいなと思っておりました」


 私がその言葉を言い終えるや否や、アガスティアが何かに反応しました。そしてアガスティアは意味深な笑みを浮かべてそして瞳を閉じました。もしかして、と思い私は障子を開けました。その、もしかして、でした。




 「! こっちだ」
 「来てくれると思っていました」


 私は彼の手をとると、戦友たちに対して手を振って走りにくい着物を持ち上げながら走り出しました。









(戦友)































そして、新しく歩みだす。(20100111)