彼は驚いたような表情で、こちらを見ていました。
 それもそうでしょう、きっと彼は自分など選ばれないと思っていたのでしょうからその反応は当然だと想います。私だって彼を選ぶつもりもありませんでしたから、私だって驚きです。しかしそれにしてもこの私の運の良さと言うか悪さと言うものは何なのでしょうか。とりあえず彼に事情を聞いてみれば彼にも想い人が居るとの事でした。やはりそうなのですかと私は嬉々として答えました。


 彼は眉をひそめて訝しげに私を見ました。
 意味が分からないとでも言うようでした。


 「どうして俺を選んだんだ。なんで想い人が居るって言うのにそんなに嬉しそうにするんだよ?」
 彼は少し、むっとした表情で言います。喧嘩を売っているのかといわんばかりの迫力ですが私は押し負けません。

 「あなたを選んだのは私をどうでもいいと思っていそうだったからです。下手に好かれていては交渉も話し合いも持ちかける事が出来ません」私は、にこりと微笑みます。「そして想い人がいる方に悪い人はいないと私が思ったからです、それに私が持ちかける相談事は本気で見合いを望んでいる人に告げるには少々酷です」
 「どういう意味だ」
 少し彼の表情が和らぎました。警戒心が少し緩んだようでした。
 私は面倒な事は好きではないので、単刀直入に本題に切り込む事にしました。




 「この見合いを、お断りしたいのです」


 私の言葉を聞いた彼は、再び驚きのために海老天を箸で持ったまま硬直しました。
 そして一瞬の間の後にフハハハハ、と笑いました。


 「私も想い人が居ます、なので結婚するわけにはいかぬのです」私は目を見開いた彼に告げました。「あなたも見合いなどうんざりで断りたいと思っているのでしょう、良い提案だと思うのですが」
 「それは確かにそうだな。親の見解を受け入れるつもりなんて全然ないからな」
 交渉は成立しました。


 「しかし何でまたこんな面倒な事をしたんだよ」
 「両親が見合いは絶対にしろというからです、それ以外に理由などありません」
 「結局断るのに?」
 彼はまた海老天を一口食べます。それにしてもこの海老天はとても大きな海老天でした。


 「その通りです、見合いなどやるだけ無駄です。しかし謀反を起こすには格好の機会となりました」
 私と彼は、目を合わせて頷きました。私も、海老天をつまんでかぷりと食べます。ぷりぷりとしたえびがとても美味でした。
 「だから、協力して欲しいのです」


 「まかせろ、お前がどこかへ言っても俺は知らぬ存ぜぬで通す。お前が見合いを断ろうとも俺はあっさりと身を引く予定だ」
 「ありがたく思います、感謝しても感謝しきれません」
 「おう」
 彼はガッツポーズをすると、残りの海老天を一口でかぶりつきました。
 やはり、彼はとてもいい人でした。


 「あ、あと、くれぐれもこの事は内密にしていただけるとありがたいのですが」
 「人の恋路を邪魔するなんて野暮な真似はしないよ」


 「ありがとう」
 「こちらこそありがとな」
 恩に着るぜ、なんて格好をつけて言う彼がすこしだけホロホロ君と重なりました。そして私は時間になる前にそろそろ席を立とうかと考え始めます。
















(ないものをねだる)






























そして、謀反は着々と進んでいく。(20100111)